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 そんな事を考えている間、言葉が止まっていたのだろう。マナブに「六機さん?」と呼びかけられて慌てて言葉をつないだ。 「俺は、あの……ほんと、俺も友達みたいだなって。あの、もう友達だと思ってます! あ……あの、だから……」  ――だから漫画は共作ということにして欲しい、そう言いたいのに続けられなかった。  口に出す前に無理があることに気づいてしまった。友達と言いつつ、こんなにぎこちなくよそよそしい態度では説得力がまったく無い。もっと仲良く警戒心を解いてマナブを説得しなくちゃいけないのに、そんな事ができるスキルを今の弘樹はやっぱり持ちわせていなかった。  自己嫌悪でますます言葉が出てこなくなる。パソコンの前で焦りに湿った手をズボンに擦りつけていると、画面の向こうで、くすくすとマナブが笑いだした。何かおかしなことを言ったかと不安に思う弘樹をよそに、彼はどんどん笑いを大きくしていって、しまいにはカメラの前に伏して笑い出した。  弘樹はあっけにとられてその様子を見ていた。もしかして自分のたどたどしい言葉が可笑しかったのか? そう思いついたら、カッと頭に血が上った。 「あっの! 何がおかしいんですか?」  声を荒げると、はっとしたようにマナブが頭を上げる。 「ごめんなさい! 僕……いや、あなたを笑ったんじゃないんです。気分を悪くされましたか? すいません、本当に!」  見えていないのに、まるで弘樹に許しを乞うように両手を差し伸べてくるマナブの眉はすっかり八の字になっていた。本気ですまないと思っているようだ。弘樹も熱くなってしまった自分にきまり悪さをおぼえながら言う。 「いえ……俺も、すいません……」  弘樹の声を聞いて、彼は安堵した様子で椅子の背に体重をあずけた。「ふー」と大きく息をつきながら片手で目元を覆う。そうしてひとつ、ふたつ、呼吸を整えるようにしてから、またカメラに近づいて手を組み、おもむろに話し始めた。 「僕いま、六機さんの声聞いていたら、自分でもこんなになると思わないくらいうれしくってたまらないんですよね。こんな……耳元で……」  そう言いながら自分のヘッドセットのイヤーカップに手を添える彼の顔は、うっとりと法悦に浸っている。小首を傾げながら逆の手はするりと頬を滑り、筋張った男らしい指が唇に添えられた。弘樹は魅入られたように彼のその仕草から目が離せなくなっていた。マナブの人差し指が下唇をなぞる。ゆっくりと赤い舌が顔を出し、舌なめずりするように唇を舐める。  知らずにごくりと喉が鳴った。 「ね、次は一緒にランチ行きましょうよ。さっそく明日はどうですか? 仕事忙しいですか?ぜひおすすめしたい店があるんです。中華の汚い店なんですけど、メガ盛りって言うんですか、盛りつけが山みたいで写真に映えると思うんですよね」 「六機さん?」と、呼びかけられて我に返った。
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