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 あなたが一番近かったのにそれ言う? と思いながら、弘樹は彼の顔をうかがう。視線に気づいたマナブは弘樹を見つめてにっこり笑った。  もう条件反射のように頬が赤くなってしまって、弘樹はまたうつむく。 「六機さんは、SNSに作品を毎日アップしはじめてから何年くらいになりますか?」 「えっ? あー、七年? 八年くらい……」 「僕もだいたいそれくらい、あなたの投稿を見続けています。たまにひとこと、漫画の他にもつぶやいていましたよね? 大学時代の友達や先生の話、単位が足りなくて留年しそうになったこと……就職活動の間はいつも元気がなさそうでしたね。仕事が決まった時はめんどくさいとぼやいていたけど僕は親戚のおじさんみたいにうれしかったな。それから毎年なぜか年末には必ずインフルエンザにかかって、ひとりで死にそうになりながら投稿する絵がネタになってるっていうのも楽しいですよね。今は……仕事が辛そうなことと、あまり眠れていなさそうなのが心配かな」 「…………」  マナブが話すことの数々は、弘樹がSNSに何気なく投稿してきた日々の出来事だ。自分自身でさえもほとんど忘れている事柄が、今まで知り合いでもなんでもなかった人物の口から出てくるのは居心地が悪かった。確かに自分から発信してはいるがたわいのないことで、こんなに長く誰かに記憶されるとは思ってもみなかった。正直、ちょっと、気味が悪い。  こわばる弘樹の表情を見て、マナブは苦笑いした。 「ストーカーっぽい? ほんとにごめんなさい。でも、それほど六機さんのことは身近に感じていたんです。僕、最初は日本語なんてほとんど読めませんでした。そのことを母は嘆いていましたけど、勉強するほどの意義は感じていなかったんです。だけど僕の好きなアニメの国に住んでいて、すごく絵や漫画が上手で、僕とは違うカルチャーの中で生きている人、〝六機さん〟に出会って変わりました。あなたのことを知りたくて努力しました」 「ほら」そう言ってマナブは胸の内をすべてさらすように両腕を広げる。 「今は日本に住むまでになっている」 「え? 俺のせい?」  驚いて弘樹が目を見開くと、マナブは「そればかりが理由じゃないですけど」と笑う。 「でもきっかけになったのは間違いありません。六機さんは僕の世界を広げてくれた。最初はあなたの作品に魅かれていたけど、いつの間にか六機さん自身が僕の中に住みついていました。どんな人なんだろうと想像して……僕、友達のように思うようになったって言いましたよね?」 「……はい」  いまだこわばった顔で応える弘樹に、「ああ、やっぱり重いかなー」そう言いながらマナブは額に手を当てた。 「あーもー! 六機さんに会ったらこうしたいああしたいって色々考えていたのに。こんなはずじゃなかったんだよなぁ。ストーカーだと思われて引かれるなんて最悪」
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