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「最悪だよ! 俺の馬鹿ぁー」  ひとり言のように言いながらとうとう顔を両手で覆ってしまったマナブは、男前には違いないが、やっぱりどこか可愛かった。そのギャップが思わず弘樹の顔をゆるませる。 「そりゃ引きますよ。引きますけど……まあ、うれしくもあります……」  ぽつりとこぼした言葉に、マナブは主人に呼ばれた犬のように反応した。 「What? 今何て……?」  飛び出した英語は唐突で、まるでお笑い芸人のネタみたいだ。更に笑みを深めながら弘樹は言った。 「普通にうれしいですよ。そんな遠い所で僕の絵を見つけてくれたのが奇跡だし。わざわざ日本語まで勉強してくれてうれしいです。ありがとうございました」  ぺこりと頭を下げると、マナブは両手を弘樹に差し出したまま感極まったように唇を震わせた。その目はわずかに潤んでいるようにも見える。  そんなに? やっぱり若干引きながらも、弘樹はマナブへの警戒心がゆるむのを感じていた。彼はやっぱりただの熱狂的なファンで、単純にいいヤツなのかもしれない。 「えーと、もういいかげん注文しましょうか? 昼休み終わっちゃうし」  マナブの手元にあったメニューを引き寄せて眺めながら弘樹は考える。  大丈夫だ。仲良くなれそうだし、ちゃんと話ができる。共作にして欲しいってお願いしてみよう。それから――もしやっぱり嫌だと言われたら、連載している漫画は没にしよう。  苦しいかもしれないけど、きっと何か新しいアイデアは浮かんでくる。こんなに好きになってくれる人が海外にだっていたのだ、自分ならきっとできる。はじめからそうすれば良かったんだ。  面白い漫画が描けそうな予感がしてきた。根拠はないが晴れやかな気持ちで弘樹は微笑んだ。そんな弘樹を眩しそうに見つめてから、マナブは店の古びた時計を見て慌てて言った。 「時間ありませんね。注文してからすぐ出てくるのは、あんかけチャーハンかラーメンかな?」 「じゃあ俺、ラーメン」 「僕はチャーハンにしますね」  ふたりで顔を寄せ合ってメニューを吟味して、注文してから五分と待たずに出てきた実物に、弘樹は感嘆の声を上げた。 「でっけぇ!」  ラーメンの上に山のように盛られた野菜炒めが器から下の皿に零れ落ちている。少し遅れて来たマナブのあんかけチャーハンは、深めの容器に入ったあんの海の底にチャーハンが溺れているように見えた。 「あはは、何これ、めっちゃ映える」  迫力ある盛りに興奮した弘樹は、カシャカシャと角度を変えて何度も写真を撮った。手元で画像を確認すると、デカ盛りが二つ並ぶ写真はインパクト十分だ。いつものお洒落なランチではないが確実にピタがもらえそうだった。うまく撮れたのを、「ほら」と言ってマナブへも見せてやる。弘樹の為に食べないで待っていてくれた彼は、「おおー」と声を上げながら、にこにこと言った。 「やっぱり六機さんは写真の構図もうまいね。いつもそう思ってた。センスあるなって」
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