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「あ……ありがとう」  頬がかっと熱くなるのをごまかすように、弘樹はまたスマホに目線を落とした。  イケメンやべえ。  マナブに何か言われるたびに顔色を変えてしまう自分が恥ずかしい。早くこの規格外のイケメンに慣れたいよな、そう思いながらマナブに取ってもらった割り箸をさいてから気づいた。 「俺……こんなに食べられない」 「ふっ」  吹き出したマナブは、弘樹のラーメンの上からごっそり野菜炒めを取り上げると、自分のチャーハンの上に乗せた。マナブの前には通常の二倍くらいになった山が出来上がる。 「僕はこれくらい平気。日本の中華は美味しいよね」  そう言いながらレンゲを持った彼の口に、すいすいと面白いようにあんとチャーハンと野菜炒めが消えていく。  思わず口をぽかんと開けて見とれていた弘樹に、「麺伸びちゃうよ」とマナブが笑う。 「あ、うん」  すすったラーメンの味はなかなかだった。  ほぼ同時に食べ始めたのに、食べ終わったのはマナブの方が早い。ふう、と最後の麺を飲み込んで水を飲むと、弘樹は椅子に深くもたれて腹を抱えた。 「麺も多かったー」 「そう? 六機さんはあんまり量食べないんだね」 「まあそうかもしんない。見てこの腹」  弘樹はぽこんと張り出した胃の辺りをマナブに見せつける。「どれどれ触らせて」そう言われて伸ばされてた手にぎょっとしたが、拒む前にお腹をさすられていた。 「うーん、りっぱだね」 「うっ、うん」  じんわり汗ばんできた。どうもマナブとだと普通の男友達とのようになれない。過剰に意識せずにいられない。  触れられた手は男らしく筋張っているけれど指は長く繊細で美しかった。パーツまでイケメンなんだな、そんな事を思ってなんとも妙な感覚にじっと耐える。もういい加減にやめてほしいと思ったとき、その手はすっと離れていった。 「六機さん」  両手を組んで顎の下に当てたマナブの視線が、じっと弘樹の顔に注がれる。 「……えっと、なんでしょう?」  どうにも座りが悪くなって姿勢を直す弘樹に、マナブは優しい顔で笑いかけた。 「良かった。温かいもの食べたからかな? 隈が少し薄くなってる」 「え? そうかな? 良かった」  両手で目の下をごしごしと擦っていると、その手をマナブに掴まれて止められた。 「擦っちゃだめだよ」 「ああ」  弘樹が擦るのを止めても、テーブルの上に下ろした右手は握られたままだった。 「六機さん……」  再び呼びかける彼の声は真剣な色を帯びていて、何か大切な事を告げようとしていた。ごくっと唾を飲んで弘樹は息をひそめて待つ。 「昨日は眠れなかった? きっとそうなんだろうね。ファンとしては心配すべきなんだろうけど、僕はうれしいんだ。この数日、あなたはきっと僕のことを考えたでしょう? 眠れなくなるほど考えたんじゃないのかな?」
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