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「……ねぇ、聞いてる? 弘樹?」  マナブの呼びかけに我に返る。今夜もビデオ通話で話していたのにすこしぼうっとしていたらしい。 「ごめん聞いてなかった、何だっけ?」 「眠いんならちゃんとベッドで寝た方がいいよ? って言ってもなーほら、弘樹の部屋は相変わらずだもんな。ベッドもゴミに埋もれそうじゃないか。いつか掃除しに行ってあげたいよ」  えーと言いながら弘樹はカメラに映っているであろう自分の部屋を見回す。  最初はこの汚部屋をあんなにおしゃれな部屋に住むマナブに見せるのは抵抗があった。しかし見れば弘樹への幻想も消えるかと思ってありのままをさらした。すると一度顔をしかめられたがそれだけで、それからことあるごとに『掃除に行きたい』と言われるようになってしまった。  この狭いワンルームにマナブがいる事を想像する。きっと大きな身体がおさまればますます狭く感じるに違いない。めんどくさい掃除をしてもらえるのなら大歓迎ではあるが、さすがに部屋に入れるのはダメだと弘樹もわきまえていた。 「掃除は自分でしますよ、大丈夫。資料も見とく。ギリシャ風じゃなくてメソポタミヤ風の建物とか言われてもわかんねえもん」 「僕の絵がまぎらわしくてごめんね」 「んーいいよ。ねえねえそれよりさ、さっき見たら〝リムレス仙人〟からコメントきてたんだけど。すごくない?」 「リム……え、誰?」 「あ? マナブ知らないか。プロのイラストレーターで昔すごかった人でさ、まー俺の師匠とも言える。一方的にそう思ってるだけなんだけどね」 「ふーん」  反応の薄いマナブに「フォロワー五桁だぞ!」とムキになって説明してもいまいち響かない。がっかりしながら「いいや、とにかく『最近面白くなってる』ってそう描いてあったの」と報告すると、あれ、とマナブが首をかしげた。 「弘樹チェックしてないの? ランキング四十位まで上がってきてるよ。フォロワーも増えてるでしょ?」 「え?」  弘樹は慌ててSNSのトップ画面に表示されている人気ランキングを確認する。表紙といわれるトップ画面に乗れるのは十位までだから、もっと見るにはページをクリックする必要がある。そうしてずらっと二十位単位に表示されているランキングを六十位から遡っていくと……あった。今日現在二十三位。また上がったということか? 「……うっそ」  モニターの上にカメラをつけているから、かじりついて見ている顔はマナブ側にどアップで映っているだろう。彼のくすくす笑う声が聞こえてくる。そんなことさえ失念してぽかんとしたまま動かない弘樹にマナブは言った。 「まさか確認してなかったの? フォロワーだって百人単位で増えてるよ。あと二話で最終回だからね、完結したら十位以内も夢じゃないんじゃないかな」
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