7/13

111人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
 ランキング一位になったら記念に豪華なところに食事に行こう。  そう言ったのはマナブだったのに、それが決まるかもしれない大事な今日に、どうしても仕事で見られないっていうのはどういうことなんだ?  貧乏ゆすりをしながらパソコンの前でお気に入りの炭酸飲料を飲む弘樹は、マナブに腹を立てていた。  約三か月続いた連載が終わり、とうとう弘樹たちの漫画は完結した。作者のクレジットは〝六機〟のままだ。しかしふたりで話し合って描き上げた作品だ。SNSのランキング一位になれるかどうかはまだ賭けだが、その瞬間を一緒に見たいと思っていたのに……。 「時差があるからどうしても。終わったらすぐ通話するから、それまで起きていて?」  昼時いつものように一緒にランチを食べながら、日本人がよくやるしぐさで両手を合わせて拝むようにするマナブに、弘樹は唇を尖らせた。 「だって、一位になるとしたら今日だろ? なんで重なるかな」――。  弘樹たちの漫画は自分たちの想像を超えて話題になっていた。SNS内限定で局地的にバズっているともいえる状況だ。漫画の最終話を投稿したのは昨日。その時点で弘樹のフォロワー数はなんとリムレス仙人にも負けない一万人台になっていた。完結をお祝いするコメントも五百以上届いた。信じられない。  でも正直弘樹自身は、変化に追いつけていなかった。最初はマメに新規フォローにお礼のメッセージをしたりコメントに返信をしていたりしたが、きりがないのでもうあきらめた。すごいことだとわかっていても現実は変わらず会社と家の往復で冴えないことに変わりない。そのせいか実感が乏しい。まだふわふわとしていて地に足が着いていない感じがする。  しっかりしなきゃとは思うが、今はマナブがいてくれるから大丈夫だよなと、気が大きくなっているのも確かだ。弘樹がつまずきそうになれば必ず助けてくれる彼がいれば、余計な心配は不要だ。  ピタやコメント数、ページアクセス数や評価で独自に集計されているSNSの人気ランキングは一日遅れでサイトに反映される。完結すればぐんとアクセスが増える。それ以降は何か予想外の事でも起きなければ一位を取るのは無理だ。昨日の時点で十二位。一位までの数字になっているかは弘樹にも未知のことなのでわからないが、今日しかチャンスはない。  ランキングが更新されるのは一日一回、夜中の零時。その瞬間トップ画面が入れ替わる。全体ランキングで十位までの作品が表示されるのだ。  弘樹はパソコンの前に座って、その瞬間をいまかいまかと待ち構えているのだった。  アクセス数だけならリアルタイムでわかる。その伸びをみる限り一位も夢じゃないという感触はある。あーでもわからない……。ちょうど人気のある作家さんの作品も佳境を迎えているし、商業誌で連載している作家が趣味でやっている二次創作もある。フォロワー数で負けているから微妙なところだ。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加