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時刻は午後十一時五十分を過ぎた。
さっき完結を報告するカラー絵を投稿したところだ。これを見てまた新規のユーザーさんが漫画にアクセスしてくれたりするといいんだけどな、そう思いながら他のユーザーのページを見て時間をつぶす。だが、どうにもソワソワして落ち着かない。
すると目に留まった知らない作家の漫画が、自分たちのものに似ている気がして手を止めた。
「え? まじ」
ページをクリックでめくっていくと、話のすじは途中から逸れていくが最初の設定と主人公のデザインがまあまあ似ている。
「何これ、パクるとかないわー」そうぶつぶつ言いながら眉間に皺をよせて画面に見入っていると、設定していたアラームが鳴って思わず声が出た。
十二時になった――ランキングが更新されているはずだ。
何度が深呼吸して心を落ち着かせる。
チラッと目に入った新着メッセージを知らせるアイコンは、未読があること知らせている。ランキング十位以内に入れば自動でお知らせのメッセージが届くから多分それだろう。
大丈夫だとは思う。だが画面の前でお願い、と両手を組んでから恐る恐るマウスを握り、ロゴをクリックしてトップページへとんだ。
「……っ」
瞬時に切り替わった画面を前に、弘樹はしばらく動くことができないでいた。耳の後ろ辺りに心臓が移動してきたみたいにドクドクうるさく脈打つ。呼吸が浅く早くなる。体温が上昇しじんわり手の平に汗が吹き出てくる。震えはじめた手が表すように、最初に感じたのは恐れだった。
これ本当に?
この一位になってるの、俺の漫画でいいんだよね? 間違ってないよね?
画面は見ているが情報として頭に入ってこない。理解できない。まるで幽体離脱して自分の肩越しにみているような妙な感じだ。実感の無いまま条件反射のように漫画の表紙をクリックして詳細ページへ移動する。
画面いっぱいに表示されたのは確かに自分が描いた絵だ。だが左上には、昨日まで無かった『一位』と書かれた勲章のような飾りが追加されている。その下に表示されているピタの数は、まるでスロットかなにかの表示のようにくるくると止まることなくずっと増え続けていた。
「あー……うそだろ」
うれしさはだいぶ遅れてやってきた。
「あーやばい……やばい! どうしよう……一位とった。はは、やば。あはは、マジやべー‼」
いてもたってもいられなくて勢いよく立ち上がった瞬間、机の上に置いてあった炭酸飲料が自分に向かって倒れてきた。
「あっ、ぁぁああ! うっそ!」
急いで手を伸ばしたが部屋着の黒いスウェットはびしょ濡れになる。
「あーもう、どうしよ……」
とりあえずキーボードやマウスを濡れない場所に避難させてティッシュで机の上を拭き、垂れないように注意しながらそのまま風呂場に駆け込んだ。
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