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夜景が見えるように上げられた幕を順番にくぐって、案内されたテントに入った。
中は視線や冷気がさえぎられていて快適だ。毛足の長いラグの上に足のないローソファーといくつかのクッション、テーブルが設置してあって、くつろぎながら食事が楽しめる趣向らしい。
上から吊られたランタンと、骨組みにからまった色とりどり連なる電球の光が、たわむテントに映って水面のように揺れる。濃密に限定された空間は幻想的で、ファンタジーの世界に迷い込んだみたいな気分になった。
しかし初めて来たのになにか見覚えがある景色のような気がしていた弘樹は、はっと思い当ってマナブに伝える。
「ねえ、ここハリアの宿町みたいじゃない? 砂漠の中に旅人用のテントがいくつもあってさ、地面に埋まってる宝石が星空みたいにキラキラしてる……」
そうだ、自分たちが連載していた漫画の世界に似ているんだ。
「わかった? 実は僕がこの店参考にしてる」とマナブが笑った。
今日のためにぴったりだなと思いながら、弘樹も笑顔を返した。L字に置かれたソファーにそれぞれ落ち着いてから、弘樹は声をひそめてマナブに聞く。
「でもさ、高いんじゃないの?」
「そんなことは心配しないで。今日はお祝いに僕におごらせて? いい店だから弘樹には楽しんでもらえると思う。お酒は?」
マナブに聞かれて「少し」と答える。すぐ顔に出るしあまり飲めないのだ。でも今日はとにかく浮かれていて飲みたい気分だった。お祝いだからシャンパンにしようとマナブにすすめられるまま、すぐに運ばれてきた細長いグラスを手に取る。
シャンパンなんて親類の結婚式以来だな、そう思いながら次々に登っていく泡に見とれていたら、マナブがこちらを向く気配がした。
「乾杯しよう。一位の記念に、おめでとう」
グラスを軽く持ち上げるマナブに習って弘樹もぎこちなく腕を上げる。
いざ飲もうと思って口を尖らせたらマナブにさえぎられた。
「それに、今のところ今日は、僕の人生で最高の日だ。ふたりが出会えて、こうして一緒にいられることの奇跡にも、乾杯」
『奇跡』は言いすぎじゃない? キザなセリフに当てられて弘樹の頬が赤く染まる。だが、確かに今は最高の気分だ。おとなしく「乾杯」とマナブにならうと、チンと澄んだ音を立ててグラスが合わせられた。
マナブは食べっぷりもいいが飲みっぷりもいい。前菜からコースで運ばれてくる料理の合間に、次々とワイングラスを空にしていく。
ザルなのか、まったく乱れず水みたいに飲んでいる。つられて弘樹も飲みなれない白ワインを二杯も飲み干してしまった。自分にしてはかなりのペースだ。メインの肉料理も途中だが頭がふわふわしている。
「弘樹、食べられないなら僕にちょうだい」そう言うマナブに自分の分を押しやる。
「そうしてよ、もう入らないや。ふう、調子乗って飲みすぎちゃったかな」
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