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 こぼれ出てしまった声が恥ずかしくて全身が熱くなる。 「んんっ」  ぴたりと唇が重なる。抵抗しようと腕を突っ張るがうまく力が入らない。そうするほど弘樹の中に入り込んだ舌が深くからまるように蠢く。 『やめろっ』そう叫んだつもりの声は人質に取られた舌のせいで音にならなかった。しかし、うっとりと目を閉じていたマナブは薄く目を開き、ようやく身を引いた。そのままあとわずかで唇が離れるかというぎりぎりのところで止まると、とろりと溶けるようなまなざしで弘樹を見る。 「嫌ならもっと本気で拒んで……止まらなくなりそう」  興奮を無理やり押し殺すような荒い吐息にまぎれて聞こえた言葉に、弘樹はおびえた。 怖いのに逃げ出せない。胸の奥底に隠されていた本能が強いものにひれ伏したいと顔をのぞかせる。ままならない自分も恐ろしい。次の瞬間耳の下の柔らかい皮膚を尖らせた舌でたどられて、「ああっ」と声が出た。身体がさらに熱を上げる。ぞくぞくと這いまわり、ぶるぶると震えをおこさせるこの感覚は、弘樹も良く知っているやつだ。このままの状態が続けばどうなるか良くわかっている。  このままじゃ俺、ぜったい勃っちゃう。  それだけはダメだと身体が動いた。弘樹は無我夢中でソファーの下に転げて逃れると、荷物を掴んで一目散にその場から逃げ出した。  後ろで「ひろきっ」とマナブが悲痛な声で叫んだ気がしたが、振り返らなかった。 ◇◇◇  深夜、いつも通りパソコンの前に座って原稿を仕上げることに没頭する。  ずっと続けている二次創作は順調、だが少し飽きてきた。オリジナルがランキング一位に輝いて新しくフォロワーになったユーザーたちはいくら二次を頑張ってもあまり反応してくれない。届くコメントは一位になった作品の続編か、同じような新作を読みたいという声ばかりだ。  弘樹だってわかっている、〝六機〟の知名度はぐんと上がった。だけどまだ一発屋だ。ここで踏ん張ってまた面白い漫画を見せられれば、安定したファンがついてくれる。だから今、続編の話を練っている。  手元のタブレットにペンを走らせながらモニターに現れる線を背を丸め見つめる。 「主人公は闇落ち……おとなしいヒロインが、はじめて本気で怒るんだよな」  大雑把なアタリの線を引きながら、「セリフどうしよう」とぶつぶつと口に出しながら考える。 「『うらぎりもの!』じゃ、憎んでる感じになっちゃうか。そうじゃなくて悲しんでるんだから、『本当の自分を思い出して!』とか?」 「そうだ、ちょっとエロい展開にしようかな。リクに襲われそうになって服とかやぶけちゃって『最初から私の体が目当てだったのね!』って……」  考えたセリフをなりきって口に出してから、ふと今の自分の状況に似ていると思ってイラっとした。 「やめ!」
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