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 いつの間にか聞かなくなったな、と思いながら、一か月前で更新が途絶え放置されていそうなそのブログを読み進める。  どうやら〝リムレス仙人〟は、他のアニメに鞍替えして活動していたようだった。目立つトップのイラストは相変わらず超絶上手いが、弘樹にとっては魅力を感じないキャラクターの絵になっているし、内容もほとんどがそのアニメの感想だ。 「はぁ?」  裏切られた気持ちになって思わずこぼす。  そのキャラが今大人気でSNSも盛り上がっているのは知っている。そのアニメが一世を風靡したのも横目で見ていた。自分も毎回放映はチェックしていて、正直面白いなと心が動きはしたが、それでも弘樹は浮気することができなかった。  今の自分のジャンルに愛着もあったし、負けるもんかと変に意地を張ってもいた。自分はこの愛する衰退ジャンルともがきながら創作することこそがプライドだ。本物の作品への愛だ。もう意地でも乗り換えられない。  それに対してリムレス仙人は、雑多に流行りのアニメのことを話題にしていた。  「しょせんその程度なんだよ」と、八つ当たりに近い憤りを感じながらプロフィールにのっていた例のSNSへのリンクをクリックする。そしてそこに表示された数字を見て愕然とした。  リムレス仙人のアカウントのフォロワー数は五桁。更新は二年前、弘樹が始める前で途絶えている。最後にアップされた画像は二次創作ではなくオリジナルキャラクターのイラストで、ピタの数は一万を超えていた。 「まじか……」  つぶやいてちゃんとプロフィールを読むと、今はプロのイラストレーターとして活躍していて、仕事以外の作品をネットへ公開する事はやめているようだった。  どうりで、と思いながら、「いいなぁ」とため息のように言葉がこぼれる。  同人作家から抜け出してプロになれたのが心底うらやましい。時々『趣味だから』とうそぶく人間もいるが、誰だってアマチュアのままでいたいはずがない。好きなことだけで食っていけるのならそれが一番なのだ。  カチカチとクリックでブログのページを移り、SNSで一万ピタをはじき出していた頃までさかのぼる。頬杖をつき、椅子の座面に片足を引き上げてだらしなく座っていた弘樹は、思わず姿勢を正した。 『〝ピタ〟を増やしたいならこうしろ! 誰でもできる秘訣、神絵師が特別に教えます』――。 「えっ! なになに?」  まさに知りたかった情報が書いてある。弘樹は身を乗り出して画面をスクロールさせた。曰く、更新はマメに、できれば毎日。読者を飽きさせないコト。  「そんなのしてるし……」ただの閲覧数稼ぎだったかなと興味を失いかけていたとき、次の言葉に目が止まった。 『ピタは共感! ファンを大切に』 『フォロワーさんに嫌われたくない、かっこ悪い所は見せられない。そう思っていませんか?大丈夫、逆です。時には泣き言や、落ち込んでいる姿も見せて良いんです。悩んでいるならそのまま書きましょう』 「落ち込んでる姿? なんで?」
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