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 やり直しのショートカットキーを何度も押して押して、全てを削除する。再び白紙に戻った画面を眺めてから身体を椅子の背に勢いよくあずけて、「はあーっ」と天井を見上げた。  あの夜から一週間、今度こそぴたりとマナブからの連絡は途絶えた。  SNSに投稿しても、コメントはおろかピタさえつかなくなった。  一位になってからフォロワーが数十倍増えてピタの数も急増したが、それにまぎれて見落としている訳ではない。弘樹は目を皿のようにして毎日チェックしている。それでも間違いなく来ていない。  こんなことは弘樹が投稿をはじめてから初めてだ。彼は初めて反応をくれたユーザーでもあったから。  マナブは弘樹の前から姿を消してしまった。  その気になれば連絡をとることはできる。ビデオ通話でもメッセージでも。だが、これまでは常に連絡をしてくるのはマナブからだった。弘樹からしたことは一度も無い。だからなのか、こちらから連絡をするにはとてつもなく勇気が必要だということに気がついた。  しかし勇気など必要はない。弘樹から連絡をするつもりなどさらさら無かったからだ。どうしても会いたいというのならマナブから連絡をしてくるべきだし、まずはちゃんと謝るべきなのだ。  キスをされたこと自体に怒りは湧いてこなかった。ただただ今も、信じられない気持ちでいるだけだ。自分でも不思議に思う。弘樹にとってはあれがファーストキスだったというのに。  弘樹が頭に来ているのは、その後連絡が途絶えたことだ。  どうせ拒んだから、それ以上のことが出来なかったから、もう弘樹など用無しになったのだろう。突然消えたというのはそういうことだ。捨てられたのだ。  SNSのつながりだけだった頃からか、それとも会ってからなのかは知らないが、マナブははじめからそういう目的で弘樹に優しくした。近づいて懐柔して『ヤりたい』と、あの男はそればかり考えていたのに違いない。  弘樹がつい出来心で漫画をパクったのだって、『ラッキーだった』とかなんとか言っていたじゃないか。あわよくばと餌をまいたのにまんまとかかって内心舌なめずりをしたに違いないのだ。それなのに自分は喜んでランチに行けばぺらぺらと漫画の話をして、尻尾を振ってなついていって、泣いて謝って一位になったのも一番に報告して………馬鹿みたいじゃないか。  下心に気づけなかった自分が情けなくて、弘樹の怒りはおさまる気配がなかった。  だからもうマナブとの関係は終わりにするつもりだった。漫画も自分だけの力で描き上げる。続編だからちょっとマナブと話していたネタを拝借するが、入り口だけ。あんなに次々にアイデアが湧いていたじゃないか。ひとりだってきっとやれる。そして最後まで描き上げて、また一位になる。  それが弘樹をだましたマナブへの彼なりの復讐で、弘樹は燃えていたのだ。  
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