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 ひとりになった今は、元に戻っただけのはずなのに、そんな流行りの店には自分だけ場違いな気がしてしょうがない。前に並んだ女性たちも、後ろにいるグループも楽しそうに話している。俺だって話をする相手はいたんだ――でも、今はいない。  そうして結局マナブのことを考えてしまう自分が情けないし腹が立つ。せっかく並んでありついた豪華なランチだって、味気ない。どうせ写真をとったところでマナブは見ていないのだ。そう思ったら、何もかも馬鹿馬鹿しくなった。 ◇◇◇  家に帰りつくと、コンビニの袋を床の上に放り投げる。その横には昨日か一昨日の食べ残しが入った同じ袋が落ちている。目には入るが、どうにかしなきゃという気さえ起こらない。  かろうじて会社用のスーツはハンガーに吊るして、ぽいぽいとその場で下着まで脱ぎ捨てると弘樹は風呂場に向かった。ゆっくりとしか温まらないシャワーを惰性で浴びながら、頭が漫画を描くモードに切り替わるのを待つ。ストーリーの続きを考えなくちゃいけない。わかっていても最近集中力が続かず、脳みそがふわふわしていて思考がまとまらない事が多い。書き溜めた原稿もそろそろ無くなる。また、その日投稿する原稿に悩む日々が戻ってくる。  置きっぱなしのタオルでざっと身体を拭き、服も着ずにふらふらとパソコンの前に座る。さすがに伸びすぎだと感じる髪の毛からポタポタと雫が垂れては、マウスを持つ腕を伝った。  今日もまたフォロワーが減っている。それでも数百人はいてくれるのは、弘樹が続編を匂わせるつぶやきをするからだ。かっこ悪いなと自分でも思っている。漫画は全然描けていないのに、つなぎとめるために情報だけは小賢しくアップする。だけど世の中には毎日読んでも終わらないくらい漫画も、娯楽も溢れていて忘れられるのなんてあっと言う間だ。そろそろ限界なのかなと感じている。  何気なくクリックすると、新着投稿に〝リムレス仙人〟の名前があって驚く。 「おっ、マジ?」  興奮しながらリムレス仙人のアカウントに飛ぶ。アップされたのはつい一時間前、けっこう力の入ったカラーイラストが投稿されていた。大きな猫目の、発光するような肌をした金髪エルフの女の子。きわどい衣装からのぞく太腿がむっちりしていてかわいい。実際の人間とはパースが違っても動きのある構図はオリジナリティがあって群を抜いて目を引く。 「さすが、うまいなぁ」  あこがれをこめてつぶやいている間にもイラストにピタが押され積み重なっていく。もう三百を超えている。プロイラストレーターとして活躍している間は更新しないと宣言していたはずだったが、またこのSNSに戻ってきたのだろうか? 不思議に思いながらプロフィールを確認する。ずっと更新されていなかったそこはこう書き変わっていた。
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