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『ども、期間限定で復活しましたリムレス仙人です。覚えててくれる人いますか? ちょっとみんなに知っておいて欲しいことがあったので、戻ってきます』 「へえー、何だろ? チェックしないとな」  今日はイラストの後に文章も投稿されているようだ。椅子の上に立膝をついて画面に近づく。 『最近の新人、みんな何かに似ているね。どれも同じに見えて物足りないと思うの俺だけ? 自分だけの個性、売り物が無いとプロではやっていけません。一本(いっぽん)当たっただけじゃまぐれでしょ? 一位とった人も別人みたいに低迷してるよね。それが本当の実力。続かないと本物じゃないんです』  それにはリムレス仙人の復活を歓迎するコメントと、辛口な批判をさすがだ、同感だとほめそやすコメントが数十件ついている。  本気か?  一本じゃまぐれ。続かないと本物じゃない? 読んでいる間にむかむかと胸の辺りに嫌なものが上ってきていた。戸惑いながら、弘樹は直感していた。  これ俺のことだ。  〝六機〟と明言されたわけじゃない。一位を取っている作家は何人もいる。特定の人物に向けて書いたわけじゃないかもしれない。プロでやれていることを自慢したい昔の有名人が勢いのある新人たちにマウントしているだけのつぶやきだ。もしかしたら他の人を指しているのかもしれない。  だけどそこに込められた害意は、弘樹を直撃していた。  なぜ? 怒りと戸惑いが混ざり合う。自分が憧れのリムレス仙人さんに嫌われるような存在になってしまったのがショックだった。こちらからは好意しかないただのファンなのに。いわれのない敵意を向けられるのはどうしてなんだ?   考えても見当がつかなかった。唯一可能性があるとするなら、SNSなんかにのめり込む前にリムレス仙人さんの絵に影響を受けて近い絵柄で描いていたことがある。ただその時期はそういう絵柄が流行っていて、みんながなにがしか影響を受け合って同じようなテイストになっていたのだ。六機だけが嫌われる理由はない。 「なんだよ……」  いつのまにか弱り切った心にダメージは大きかった。  風呂上がりの水滴が渇いた肌の上を、今度は涙が濡らす。慣れ親しんだ感情がまた弘樹を犯して浸していく。  頑張っているのに、なんでわかってくれないんだ。弘樹の努力はずっと前からむくわれない。人に見られず、見られても無視され、届いたと思ったら『いらない』と拒まれる。何のためにやっているんだ? 漫画が好きだから? 自分が満足できればそれでいい? そうじゃない、違うんだ。 「うっ、ひうっ……」すすり泣きがこぼれる。  机に伏してクッション代わりにした腕の隙間にこもる声は他人のようだ。どこか冷めたな頭の一部が、これこそ意味のないことだと言う。お決まりの自己憐憫がはじまったと。そうかもしれない。そうかもしれないけど。  寂しいんだ。
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