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 おやつタイムが終了したのか、まとめた書類を机の上でトントンと整えて、「打合せいってきまーす」とジャケットをはおり席を立った課長を、「行ってらっしゃい」と見送りながらこっそりまだ観察を続ける。目で追っているとドアの前で、企画部部長と行き会った課長がうれしそうに部長の肩を叩いたのを見て弘樹はにやりと笑った。  アイデアが浮かんだ。企画部長と課長は確か同期だったんだよな。ヒロインを好きになるのは同期の男子にしよう。頑張り屋のヒロインがくじけたときは、そっと助けてあげるのだ。お互い好きなのに仕事上の仲間としか思われていないとすれ違う、両片思いにしよう。  思いついたアイデアは忘れないようにメモしないと。弘樹は課長がいないのをいいことに、こっそりスマホを取り出した。 「りょう、かたおもい、っと」  メモ帳に打ちこんでから、ついでに昨日からはじめた連載のアクセス数がどうなっているかSNSを確認する。  アクセス数は三千件を超えている、ピタは千いくかくらい。だがフォロワー数から言えば当然。一回目を読んでどれくらいの人が二回目からも読み続けてくれるかが勝負だ。何て言ったって新連載は、一位をとった作品とは全くジャンルが違う。冒険ファンタジーからお仕事サクセス系ラブコメディに路線を変えたのだ。  弘樹は相当考えた。本当はもともと二次創作でやっていた元になったアニメのような、壮大な世界観の中で少年が敵と闘いながら強くなっていく、そんな王道の物語が好きだ。だが、背伸びしすぎていた気がする。弘樹にその世界の話を考える才能がないのなら、他の方法を考えるしかない。そうして思いついたのは、自分の日常をベースにすることだった。それなら世界観も、そこにいる人々の喜怒哀楽も、そのまま観察して少し誇張して描けばいい。ぽんと降ってきた思いつきを検討してみたら、面白いようにすいすいとストーリーが思いついた。  とりあえずモデルは課長にした。ぐんと年齢を下げて入社したての頃の課長だ。以前誘われて嫌々行ったランチで語っていた入社当時の苦労話なんかを元にして、最終的には有名な漫画みたいに社長にしてやろうかなと考えている。  たぶん本人に知られたら思いっきり引かれそうだ。デフォルメして出るとこ出てる美少女にしているし。だけど面倒見のいいところや、少し抜けているけど憎めない性格は参考にさせてもらった。弘樹的にはかなり魅力的なキャラクターが作れたと思っている。手ごたえはあった。  こっそり手元のスマホの画面をスクロールして、新作に書き込まれたコメントを読んでいく。数十件書かれていてもそのほとんどは、やっぱり一位をとった作品のようなファンタジーが読みたいという意見だった。しかし何件か歓迎する内容もある。 『面白そう。こういうの好き。期待してます』 『キャラかわいい』 『絵うまーい!』
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