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そういう意見を見つけると自然と頬がゆるんだ。まだ少数だが、そう思う人のために頑張ろうと思う。すっすっと動かす親指に合わせて飛ぶように画面が流れていく。そして、その人を見つけたときには行き過ぎてしまっていて、慌てて画面を止めた。
ゆっくり戻るとそれはやっぱり、マナブからのコメントだった。
『るいちゃんLOVE♡♡♡』
「……ぶぶっ」
マナブのキャラらしくないコメントに思わず吹き出す。あの色男が胸の前でハートのハンドサインをしている姿がリアルに目に浮かぶ。会社なのにまずい、と周りを見渡したが幸い、幸いこちらを気にかける同僚はいなかった。
ちなみに〝るいちゃん〟というのは主人公の名前だ。
読んでてくれたんだな。
そしてきっと、続編を描かなかった弘樹の気持ちを理解して、こうして応援してくれている。
「変なテンションだけどな」
小声でつぶやいてもう一度マナブのコメントを眺めた。
――会いたい。
それはふと、何の違和感もなく湧き出してきた感情だった。会って顔を見たい。一緒にランチに行って『量が多い』と愚痴りたい。本当は一緒に漫画の続きを考えて語り合いたい。会ってもう一度……。
でもそれは出来ないと知っていた。
会うのならその先の、それ以上を受け入れる覚悟が無いと駄目だ。不用意にまた拒めばきっとマナブを傷つける。そうなるくらいなら会わない方がいい。SNSで細い糸がつながるくらいの、今くらいの関係でいい。
だけど寂しい、と、心がまた小さくきしんだ。
頭ではわかっている。しかし一度芽を出した気持ちは簡単には消えない。会いたい、会えない。寂しい。会いたい。
不思議とそれは、マナブと出会う前の何もない世界に取り残されているような、消えてしまいたくなるほどの孤独な感情ではなかった。苦しいのにいつまでも抱きしめていたくなるような、温かい寂しさ。
もしかしたらこれが、好きになるっていうことなのかもな――そう思いながら弘樹はいつにも増してロマンチックなことを考える自分に少し笑って、スマホをポケットにしまった。
◇◇◇
新作を投稿しはじめて一ヶ月が経った。毎日二ページ更新しつづけて、六十ページ。ピタは平均で一日四百に届かないくらい。でもじわじわ増えているから順調だと思う。
夜中の十二時にSNSにアップすると、十分くらいたって必ずマナブがコメントしてくれる。
『今日も面白かった。るいちゃん見てると元気になれます。昨日の昼はまた寿司』
何度読み返しても思わず顔がほころんでしまう。だって最後のこれは他の人にはわからないだろう。マナブは最近こうして毎回ランチの内容を報告してくれるようになった。だから弘樹も返信する。
『僕はラーメンです。あ、感想どうも』
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