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 弘樹には思いつかない発想だった。  同人とはいえ作家としての誇りがある。完璧な作品で語ってこそ、読者を楽しませてこそだと思っていたのに違うのだろうか?  疑問を持ちながら読み進める。  リムレス仙人さんは案外真面目に分析をして書き記していた。ピタをもらうには、作品の出来は当然として、作者自身のファンを作ることが重要だと書いてある。  同じレベルの作品が投稿されても、フォロワーが多い作者の方が目に触れやすく桁違いにピタがつく。フォロワーを増やすにはどうするかと言ったら、その中でもコメントを送り作品を拡散してくれるファンの数を増やすべきだ。ファンは自分が好きだと思った感情を共有したいがために、また新たなファンを増やそうと積極的に行動してくれるからだ、と。  『では、そのファンを増やすにはどうしたらいいのか、知りたいですか?』  弘樹は思わず身を乗り出して画面を見つめる。 『等身大で身近な、応援したくなるような作者になることです――自分はフォロワーのみんなと同じ平凡な人間なんですよ、日々辛いことがあって悩みがありますが、頑張って作品を作り続けているんです――そういうキャラになりきってください。例えあなたが天才でイケメンでなんの悩みもないお金持ちでも、卑屈なくらいが丁度よいです。ピタのために演じ切りましょう。その上で特定されない程度に私生活もさらして話題を提供できたら、反応はじゃんじゃん来ます。マジです。ぜひやってみてください』 「えー……」  ページを読み終わり、椅子をくるりと一回転させる。戻ってくると、弘樹は手元のペンタブレットで描きかけている漫画をいたずらに拡大したり縮小させたりしてみた。  リムレス仙人の言っていることはわかる。確かに自分には常連になってくれるファンが少ないなと気にしてはいた。これまでも作品の投稿の他に、近況については気が向いたら少しは書き込んでいた。だがフォロワーに向けて意識して書いたわけではない。気心の知れた仲間とのやり取りだけで十分楽しいと思っていたからだ。  フォロワーのことはありがたいし大切にしてきたつもりだが、だからみんなすぐ離れていってしまったのだろうか? しかしリムレス仙人のいう通りに、今さら弱音や悩みをさらけ出すなんて、怖すぎる。そんなことで本当にファンになってくれるものなのか? 弘樹自身は人一倍プライドが高いという自覚がある。ダメな自分がバレて叩かれて炎上なんてことになったらダメージがデカい。  自分は作品さえ見てもらえればいいんだ。余計な事でピタを増やしたところで〝本物〟じゃない、そう思う気持ちも捨てきれない。  それでも――今は悩みなら山盛りだ。泣き言だっていくらでも吐き出せる。だったら一度くらいやってみようか。  半信半疑だったが試しにSNSに短く書き込んでみる。 『新作、進みません。俺って才能ないのかなー。もうだめです誰かタスケテー……』  画面に表示されると一層情けなくなる。やっぱり消そうと思ったそのとき、返信が来た。 「わっ」
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