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 一体いくつついたんだ? 何かでバズったかな。いぶかしく思いながらタップしたとき、ゴーッと駅構内に地響きがして強い風が吹き抜ける。電車が来たと慌てて立ち上がった弘樹は、だがちらっと目に入った文面に立ちすくんだ。 『パクり』  それだけ書かれたコメント。  日本語のはずなのに、最初は意味が思い浮かばなかった。  パクり。ぬいぐるみのワニが大きく口を開けて自分の頭にかみつく間抜けな絵が浮かぶ。  書き込んだユーザーは見たことが無い。知らないアイコンだ。  「え、パクリ?」  じわじわと言葉が染み込んできて、まずい事が起こっていると理解する。  「……え?」  にわかに震えだした手で画面をスクロールさせる。 『この漫画、全部他の人のパクってんだって』 『パクり パクり パクり パクり パクり パクり パクり』 『最悪ー。人の盗んで一位になるとか。消えればいいのに』 『急に面白くなったからおかしいと思ってた。犯罪者かよ』 『ショック。このお話好きだったのに。ファンやめます』 『注意‼ パクり作品です。ピタしないでください!』 『パクリ パクリ パクリ パクリ パクリ パクリ パクリ』  ――パクり。  どのコメントもこう言っていた、六機のこの作品はパクりだ。盗作だと。  目の前がぐるぐる回る。足下がぐにゃぐにゃ揺れる。  どうやって帰ってきたのか覚えていない。でも知らない間に部屋に帰りつき部屋着に着替えていた。いつもの定位置のパソコンの前に座っている。  時計を見るともう十一時半だ。いけない、今日分の更新の準備をしなくてはとパソコンの電源に手を伸ばしたが、寸前で手が止まった。  思い出した。自分が今どんな状況になっているのか。  炎上。  その二文字が浮かんで、弘樹は頭を抱えた。  炎上とはSNS上でよってたかって叩かれることだ。誹謗中傷を集中砲火で浴びること。他人事だと思っていた最悪の状況に弘樹は陥っていた。  地下鉄の駅で確認してからもう数時間たっている。どれくらいコメントが増えているだろうか。見るのは怖いが、どうなっているかわからないままでは何もできない。まるで鉛のように重くなった指で電源を入れ、パソコンが立ち上がるのをじりじりと待つ。数件読んで気分が悪くなった。我慢してまた何件か読んで、大体何が起こったかがわかってきた。  パクりと言われているのは、誰がどこから探し出したのか、マナブの漫画と似すぎていることを指摘しているらしかった。ご丁寧に漫画の一部を切り取って比較しているコメントまである。  最初は確かに弘樹の出来心だった。後ろめたいところはある。だがそのことは当人同士の間で決着がついているのに、なんで今さら蒸し返されて、こんなに広まった?  まさかマナブが? そう思ってすっと血の気が引く。  そんなはずがないと思うが、この事実を知っているはの自分たちふたりだけのはずだ。
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