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 いつの間にか、風邪で高熱を出したときのように身体が震え出して止められない。  わからなかった。  なぜ? なぜなんだ?  混乱していて考えられない。ただぐるぐると頭の中が筆を洗った水のように濁る。マナブと過ごした日々の記憶が巡って、混ざりあって灰色になる。  立ち上げたSNSには、未読のコメントが千件以上と表示されていた。とても読めない数だ。電子メールにはSNSの運営会社から、今回の件について問い合わせが多く寄せられていること、もし盗作であればアカウントを停止すると予告する内容のメールも届いていた。  アカウント停止。  最悪だ。そうなれば弘樹の数年の努力がすべて消えてしまう。フォロワーもピタも、積み上げてきたものがすべて。  ――何のために? 何度も繰り返した問いが、激しい後悔になって自分を切り裂く。  終わりだ。何もかもが無くなるんだ。作品がSNS上から消えるだけじゃない。弘樹のこの数年の生活はすべてSNSの中だった。苦しみも喜びも、生きているという実感も、感情を揺らし弘樹を生かしていた全てはインターネットの中の反応だ。 「どうして……」  パソコンの画面の前で深くうなだれたまま、弘樹は頭が上げられなくなっていた。そのとき、軽やかなチャイムがビデオ通話の着信を知らせた。聞こえてはいたが応答するという当然の動作さえ頭に浮かばなかった。止まることを知らないように何度も繰り返されるその音をぼんやり聞いていた弘樹だが、やがて耐えられなくなってのろのろと通話ボタンをクリックした。 「弘樹!」  画面に現れたマナブの顔を、見知らぬ人のように眺める。  そうか、これが鳴ればマナブとつながるんだった。現実感の無いままぼーっと画面を見ていると、マナブが緊迫した様子で語りかけてきた。 「弘樹しっかりして! 大丈夫? ひどい顔色だよ、話せる?」  自分のモニターのふちを掴み、弘樹の変化を少しも見逃さないとでも言うようにのぞきこんでくるマナブの顔は、心配でたまらないと悲痛な表情を浮かべていた。 「マナブ……」  思わず出てしまったつぶやきが、弘樹の心を波立てる。 「……おまえが、やったの?」  恐る恐る聞いた言葉には、強い否定が返ってきた。 「そんなはずないだろ! 僕は弘樹を裏切ったりしない。いつだって一番のファンだし、あの話は六機にあげた。もう六機のものだ。六機が描くから面白いんだ。そんなことわかりきっている!」 「ああ……」  違う――マナブが漏らしたんじゃない。  そう理解した弘樹の目から、決壊したダムのように涙がこぼれ出す。 「マナブ、マナブ……なんで……俺……」  知らず張りつめていた緊張の糸が一気にゆるんだ。幼い子供のように泣きじゃくる弘樹の耳に、「聞いて。今から行くから。住所教えて」と叫ぶように言うマナブの声が聞こえた。しゃくりあげながら伝えると、「十五分で行く」と言って通話が切れた。
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