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そうかあの人がそんなことを。でも。
「……いい」
「え?」
弘樹は一層マナブにきつく抱きついた。
重みでバランスを崩す彼を壁に押しつける。
マナブが大切なことを伝えようとしてくれていることはわかっていた。しかし今は聞きたくない。
「弘樹……」
慌てるマナブのデニムに包まれた足に、自分の股間を押し当てる。そこが張り詰めてもどかしいのを知らしめるように腰を突き出し擦りつける。目の前にあった彼の喉仏がごくんと大きく上下した。
「俺、知らないけど……この後どうするのかとかぜんぜんわかんないけど……」
見上げた先のマナブは情けなく眉を下げ、戸惑った表情で弘樹の言葉を待っている。
「もう考えたくない。もういいんだ。だから……」
それから先をどう続けていいか見失って弘樹はうつむいた。無意識に親指の爪を噛んだ腕は次の瞬間強くマナブにつかまれ、数歩引かれてベッドの上に引き倒されていた。見慣れた天井が目に入ったと思ったらそれはすぐにマナブのシルエットに差し変わる。
「マナ……うあっ」
名を呼ぶ暇さえ与えられず部屋着のTシャツをまくり上げられ、彼の大きな手が背中を支えるように差し込まれる。ぞくっとする感覚にたまらず腹を浮かせれば、今度は無防備な腹に口づけを落とされた。
「んんっ」
経験したことのないむずがゆさに身をひねる弘樹を翻弄するように、マナブの手が身体を這いあがる。続く唇が愛おしむようにチュチュと音を立てて落とされる。鳥肌の立つわき腹から柔らかな乳首の突起を尖らせ、恥ずかしさに赤くなった鎖骨のあたりをたどられる。弘樹はそのたびにびくびくと感じて跳ねる身体を制御しようと必死になった。ぐっと爪が食い込むほど握りしめていた手は、いつの間にかするりと伸びてきたマナブの手に、なだめるように握られる。
「マナブ……」
すがるように呼んでも返事もしてくれないマナブが怖くなる。
「マナブぅ……」
湿った声にやっとマナブは顔を上げる。弘樹の上にそっと乗りあげると、持ち上げた手の甲にチュッと唇を触れさせてから弘樹を見つめる。
「……わかってる。今は何も考えられなくしてあげる」
切なく揺れながら硬質な覚悟を宿したその瞳に胸を打たれる。
乱雑に自らの服を脱ぎ捨てるマナブは、知らない男のように荒々しかった。重たそうな革のジャケットをベッドの下に落とし、首から引き抜いたシャツの下から現れたのは、男だったら憧れずにいられない薄っすらと陰影が浮かぶ鍛えられた身体だ。まるでデッサンのお手本のようなマナブの身体に弘樹は見ほれた。そしてちゅうちょなくデニムの前から取り出されたマナブの性器に言葉を失う。
彼が二度三度手で扱くと、硬く充血し血管を浮きたたせたそれがしっかりと天を向く。
「ちょっ、ちょっと待って、俺……」
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