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マナブの荒い息が彼もどれほど興奮しているか物語っている。こんなにも求められている。そう思うと下腹のあたりがきゅっと切なくなった。
続けて登ってくる大きな波にさらわれそうで弘樹はまた叫んだ。
「あーダメっ、いく、いくっ!」
「くっ、弘樹ッ……」
きつくつぶった瞼の裏で光がはじけた。
飛んでいきそうな身体を汗に濡れたマナブの腕がきつく抱きしめる。ずるりと自分の中を埋めていた物が抜け出す感覚がして、弘樹は寂しくてたまらなくなった。
もっと……。ぼんやりとかすんだ視界で彼の唇を探し、ひきとめようと吸いつこうとしたが、あまりに急に負荷がかかった身体が音を上げた。
力の抜けた手を布団に落とし、弘樹はそのまま気を失うように眠りについた。
◇◇◇
瞼を刺す光がまぶしい。弘樹は身じろいで目を覚ました。
寝ぐせのついた頭を上げて部屋を見回すと、見違えるようにきれいに掃除されていて、まだ夢の中かと疑った。
「おはよう」
しかしぴょこっと玄関の方から顔をだしたマナブに、夢じゃなかったと思いなおす。
パタンとドアの閉まる音がする。
「……どこか行ってたの?」
上半身を起こしてマナブに顔を向けると、彼はいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべながら歩いてきて弘樹の横に座った。
ふたりの重みでギシっとベッドが鳴る。
「うん。今日は缶とビンのゴミの日だったね」
そう言いながら頬に音を立ててキスを落とされた。じわっと赤くなる顔に慌ててまた布団にもぐりこみ頭までかぶる。ゴミ捨てありがとうと、もごもご言った。
弘樹は部屋着も下着も何も着ていなかった。後ろにまだ何か挟まっている感じがする。やっぱり夢なんかじゃなかったと、それでもどこかふわふわとまだ夢の中にいるような気分のまま思った。
ベッドに座り足を組んだマナブが弘樹に聞く。
「そろそろ七時だけど、会社はどうする?」
「んー……」
顔を出し髪をかき回しながら考える。
「休もうかな。今日は」
「そう」
マナブはちらっと弘樹の顔を見たが、それ以上は何も言わなかった。
「……マナブはどうすんの? もう帰る?」
思っていたより寂しそうな声になったようだ。「そんな顔しないで」とマナブが苦笑いで言う。
「僕はパソコンさえあればどこでも仕事ができるから大丈夫。こんなこともあろうかとラップトップ持ってきたんだ。えらいだろう?」
床に置いてあった鞄から銀色のパソコンを取り出して胸をはるのがおかしくて、ふたりで笑った。
「弘樹は原稿進めなよ。昨日の更新できなかっただろう?」
その言葉に嫌な事を思い出して、一気に気分が沈む。
「んー……やっぱり、それしなきゃだめ?」
駄々をこねる子供みたいにもう一度布団をかぶってベッドに沈む。
「もうさ、どっちにしろ炎上なんてしちゃったら俺の漫画読んでくれる人なんていないよ。今さら更新してももう意味ないと思うんだよな」
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