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 ふてくされて言う弘樹の頭に、ぽんぽんとマナブの大きな手が乗った。 「ひーろーき、そんな事言うなよ。昨日伝えられなかったけど、ちゃんと聞いて? 調べたんだ。デマを流した元をたどっていったら〝リムレス仙人〟にたどり着いたって昨日言ったよね。 見て、昨日投稿されたコメント。『見て見ぬふりはできないので告発します』だってさ、一体何を見たんだろうね? 何も知らないくせに正義の味方きどりだ。彼のフォロワーが過剰に反応してこの馬鹿げた騒ぎになったんだよ」  マナブが見せる画面には確かにリムレス仙人のSNSへの投稿と、追従する何件ものコメントのやり取りが表示されている。 「それに数年前の同人誌まで引っ張り出してきて、自分もパクられたことがあるって言ってるよ?」 「…………」  無意識に親指の爪を噛む弘樹の腕を、マナブが痛々しそうに掴んで止める。 「でも心配しないで。これは僕も納得済みの共作です、ってもう色んな所に書き込んでるから。弘樹もそう投稿して? 僕たちは何も悪くないけど、こうなったら早めに『お騒がせして申し訳ありません』って謝罪するのが有効だ。日本じゃそういうものだろう? ふたりの連名でコメントするのもいいかもね。僕はもともと六機のコアなファンだって証拠はあるから不自然じゃないよ。元々仲がいいって広まればすぐにおさまる」 「ひーろーき」とまた頭をなでられても、弘樹は布団にもぐったまま顔を出さなかった。安全な布団の中に引きこもって言う。 「でももう怖いんだよ! 確かに俺はパクるしか能が無いもん。みんなの言う通りだ! もう消えちゃった方がみんなの為なんだよ」 「弘樹……」  マナブの手が布団の上から優しく弘樹の身体をなでていく。 「『みんな』って誰の事? 少なくとも僕は入っていないだろう?」 「…………」 「僕は弘樹の作品を楽しみに待ってる。他にもファンはいるよね? 乱暴で無神経な言葉は大きく聞こえるけど、それはまやかしだ。君の作品を楽しみにしている人たちのことを忘れてしまわないで。僕のこと、忘れないでよ」  マナブを忘れてなんかいない、そんな思いで弘樹が布団から顔を出すと、チュッと額にキスが落ちてきた。だけど……。伸ばした手でマナブを引き寄せる。 「やっぱり今はまだ怖い……多分、描けないと思う。だからもう少し待ってて」  甘えるようにその首元に顔をうずめ弱弱しい声で告げると、マナブが笑ってうなずく気配がした。彼のその温かさに胸がトクトクと鳴りだす。うれしくて泣きたくなる。こんな気持ちははじめてだ。  弘樹は衝動のままにマナブの手を掴み、戸惑う彼を布団に引き入れる。そのまま自分から唇を合わせると、気持ちが求めるままに彼の舌に自分のそれを絡ませた。熱くて甘い。やっぱりすごく、気持ちいい。そしてうっとりと潤んだ目で誘う。 「ねえ、お願い。もう一回しよ」  マナブは逡巡するように視線をそらせた。  だが、「ごめんね。勝てないよ」そうつぶやいて昨夜の獣に戻り、弘樹の望みを叶えてくれた。
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