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 それから三日間弘樹は会社を休み、SNSの更新は滞ったまま二週間が経とうとしていた。その間ずっと、マナブは弘樹の部屋にいてくれた。  会社から帰るとノートパソコンを広げて難しい顔をしているマナブがいる。時にはヘッドセットをつけて何か早口の英語で会議らしきものをしている時もあった。区切りの良いところでふたりで夕飯を作って食べて、その後は共作になったファンタジーの物語の続きを考えたり、下手くそなマナブに漫画の描き方を教えたりして過ごした。  弘樹の見ている前で、恥ずかしがりながら絵を描くマナブにあきれて言う。 「マナブってほんっとーに絵が下手なんだな」 「言わないで。これでも精一杯なんだよ」  描いた絵の上にうつぶせになって隠してしまった彼の大きな背中を、今度は弘樹がぽんぽんと叩いてなぐさめてあげる。 「まあ、人には向き不向きがありますしね。俺はぜーんぜんストーリーが浮かばなかった。そのぶん絵は描けるから、俺たちいいコンビなのかも」  言いながらそれも今は出来ないけどな、と自分で自分の傷をくじって苦いものがこみ上げてきた。渋い顔の弘樹をじっと見つめてからマナブがその頬に手を添える。 「それで? そろそろ描けそう?」  弘樹は体育座りで床に座ったまま、ゴミに埋もれずすっかり見えるようになった床の継ぎ目を指でなぞる。 「まだ……」  ぽつんとつぶやくと、マナブは「そっか」とそれだけ言って身体を寄せ、弘樹の唇に柔らかなキスをした。  自然に目を閉じて弘樹も応える。また今日もするのかな、と思ったらすっかり慣らされた身体が熱を上げた。もうだいぶキスも上手くなった。欲しいところに誘導できるし、マナブがどうしたいのかわかるようになってきた。身体をつなげることにも気負いはない。それが一緒にいるときのふたりの普通になった。  反対に、弘樹の中からは漫画を描きたいという欲が消えていった。  前は急き立てられるように手が止められなかったのに、更新が滞っていても危機感はない。SNSだってのぞかなくても平気だ。六機の漫画を楽しみにしていてくれるマナブや、フォロワーには申し訳ないと思う。でももう寝不足でもなくネタに困らされることもない。心穏やかでいられる今に、すっかり満足していた。 漫画なんか描かないで仕事を頑張って真っ当に生きる。自分にとってはこれで良かったんじゃないかと、最近はそう思うようにさえなっていた。  だけど――漫画を描かない自分をマナブはどう思っているんだろう。今の自分は彼にとってそばにいるだけの価値があるのだろうか? そんな疑問だけは喉奥の骨のように心に引っかかっていた。
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