夢の缶詰

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「どうして私の好きな人は、私を選んでくれないの!」  夏の正午。前半の授業を終えて、休憩時間となった学校は高校生らしく騒がしい。冷房の効いた校舎は何処にいても夏の暑さとは無縁で、各々好きなように過ごしている。  カーテンをめくればソーダのそうな青空と目を焦がす太陽、そして遠くにバニラアイスのような入道雲が浮かんでいる。校庭には誰もいない、午後の体育は外だったはずだ、今から憂鬱な気持ちになる。  思わず溜め息をついた柚子の耳に、悲痛な叫びが飛び込んで来た。  カーテンから手を離して、目をやれば供に食事を取っていた女子、美羽が机に突っ伏している。  お弁当をちゃんと横に避けて、うわぁんと嘘泣きする美羽に、仕方ないと柚子は肩を竦めて正面に座る。  机横にひっかけた鞄から自分のお弁当を取り出して、食事の準備を進める。手を合わせたところで、漸く美羽へと声をかけた。 「ほら、早く食べないとお昼休み終わるよ」 「慰めてくれたっていいじゃない! というか話聞いてよ」  別に問わなくとも勝手に話すのが美羽だ。  慣れた調子で柚子が頷けば、彼女は息継ぎなしで語り始めた。酸素なくて死にそうだな 「この前、彼氏が出来たって言ったでしょうあいつさ二股かけてたのよどっちの女が本命なのって問い詰めたら迷う素振り一切なしであっちの女を選ぶのよ意味不明なんだけど私とは遊びとかありえない‼」 「また二股だったの」 「またとか言うなっ」  美羽は頻繁に恋人が変わっている。  一ヶ月保った試しがない。二股が原因で別れているのが多い。そしてことごとく相手はもう一人の女を選び、捨てられるというお決まりパターンだ。 「そういう最低男だって早めに気づけてラッキーと思っておけば」 「柚子、アンタねぇ」  だんだんと机を強く叩くものだから、周りから視線が集まる。だが美羽が原因だと分かると誰もが、またか、と自分たちの世界へと戻っていく。  頼むから彼女を引き取ってくれ。  柚子の願いは届かない。
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