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生方凛音は、四十になるこの歳まで、順調な人生を歩んでいた。
父親は大学教授、母親は公立高校の校長という家に産まれ、少々お堅くはあったが何の不自由もなく暮らしてきた。
名門の小中高一貫校をそのまま進級し、大学は、父親が教鞭を取る大学へと進んだ。
そこを卒業した後は大手不動産会社へと就職し、何事もそつなくこなした生方は、部長職にまで昇格していた。
友人は多く、上司にも部下にも恵まれている。
今までの人生、何一つとして、不満を感じるようなことはなかった。
だが、生方は、四十を迎えたこの日。
一気に奈落に突き落とされるような気分を味わっていた。
◇
「オレも四十になるし。もう結婚はないかな~って思ってたんだけど。運命って分からないもんだよな。なんとデキ婚だよ。あ、今は授かり婚っていうんだっけか」
金野大将はそう言うと、『でへへ』と照れたように笑った。
そして、鉄面皮のまま座っている生方の顔を見る。
「オレ達、小学校の時からの親友だし。やっぱり一番に知らせたくてさ。で、嫁さんはハラが出る前に式を挙げたいって言ってるんだ。お陰で今は超バタバタしている最中だよ。嫁さんのお義母さんは歓迎してくれているけど、やっぱり男親の方は複雑な感じだし。でも、そこはほら、これから一生懸命フォローして挽回する予定でさっ」
「……結婚?」
「そ、だから結婚するんだって! 何だよボーっとして? ちゃんとオレの話聞いてなかったのかよ?」
金野が唇を尖らせて、抗議の声を上げる。
そこでようやく、生方はぎこちない笑みを見せた。
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