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「それなんですが。昨夜、A管理会社から連絡が来て。この近くの建設中アパートなんですが、オーナーの方針が変わったらしく青田売りを打診されて。お陰で、現物を確認するために家を出て、今朝はあさイチでこっちに来たって訳です」
※青田売りとは、完成していない物件を販売する意味の不動産の隠語です。
「そうだったのか。相変わらず忙しそうだな……横浜の件もあるのに、こんな時に休みが回って来たのはマズかったかな」
生方のセリフに、庄司はハハっと笑った。
「大丈夫ですよ。生方さんはいつも忙しいんだし、休む時はしっかり休まないと!」
「悪いな」
「何のこれしき。それに、何か相談したい時は遠慮なく電話しますから」
庄司は「あ、まだモーニングって間に合いますか?」と言いながら、当然のように生方の前の席へと腰を下ろした。
立場は部長である生方の方が上だが、庄司とは歳が近い事もあって、かなり気さくな間柄だった。
元銀行員らしく有能な事に加え、闊達で明るい庄司は誰にでも好かれるタイプの人間で、人付き合いの苦手な生方もすんなりと会話する事が出来た。
学生時代は野球少年だったそうだが、社会人になっても草野球のチームに入って活躍する庄司は、日焼けした顔も爽やかな魅力あふれる男だった。
「生方さん、どこか旅行とか計画してなかったんですか?」
「ああ……なんか、この歳になると考えるのが面倒になってな」
「えぇ~! まだ全然若いじゃないっすか」
「ハハハハ、先日四十になったのに? もうすっかりオジサンだよ」
つい自虐的な事を口にしてしまう生方であるが。
庄司はフッと真顔になると、真剣な眼差しで生方を正面から見つめた。
「生方さんは、若くて綺麗ですよ。てか、時々可愛い顔するし。全然オジサンじゃないっすよ」
「あのな、そんなお世辞言われても、こっちは寒いだけだぞ」
呆れたように言うと、庄司はブンブンと首を振った。
「いやいや、マジですって。普段はクールで沈着冷静なアイスマンなんて言われますが、オフの時の生方さんってめっちゃホンワリしてて超イイ感じなんですよね」
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