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モーニングを堪能したあと鍵の交換を依頼し、部下の庄司を連れてマンションに戻った生方だったが。
にこやかに「安住部長、おはようございます!」と挨拶をした庄司に対し、能面のような顔をした安住を目の当たりにして、生方は少し自分の行動を後悔していた。
「……おはよう、庄司くん。ところで、何故君が、ここに?」
この質問に、生方は慌てて会話に入り込んだ。
「ええと、庄司の実家は工務店で、水回りのパッキンの交換なら何度か手伝った事があるという話だったから、ウチの洗面所のパッキンを頼もうと思ってな」
「そうなんですよ。ついでに、生方部長のお宅拝見も兼ねて」
庄司は朗らかに微笑みながら、さっさと靴を脱いで「お邪魔します」と言って部屋へ上がった。
故意かどうか分らぬが、迎え撃つように立ちはだかっていた安住を押しやって。
「わー、生方さんの自宅マンションって中も綺麗ですね! 男の一人暮らしなんて、もっとゴチャゴチャしているかと思ってましたよ」
「そうか? こんなもんだろう」
「いえいえ、オレのアパートなんて悲惨ですよ」
ハハっと笑いながら、途中のホームセンターで買って来たスパナをくるくると手で回す庄司は実に心強い味方に見える。
そうしながら、庄司はこれまた邪気の無い笑顔で突っ立ったままの安住を見遣った。
「じゃ、あとはオレが修理しますんで。安住部長はどうぞお帰り下さい。お疲れ様でした!」
じつは庄司には、事前に『パッキンの交換をしてやると安住が来ているが、役に立たないので留守番だけを頼んでいる』と伝えていた。
嘘も方便だ。
昨日、たまたま行き会ったので水回りの相談をしたところ、今朝方いきなり押し掛けられて迷惑しているとだけ庄司には吹きこんでいる。
そのホラ話を信じた庄司は「それはマジで迷惑ですね!」と、俄然やる気を出していた。
そんな庄司を、安住は感情の読めない表情になってジッと見つめた。
(そうか……庄司清見、こいつがしょうちゃんだったワケか)
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