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「……驚いたよ、まさかお前が結婚なんて……」
「ハハハ、一番驚いているのは自分だけどなっ」
金野はそう言うと、固まったままの生方の肩をバンバンと叩く。
「とにかく、オレは一足先に独身貴族は卒業だ。次はお前の番だな」
「――なに?」
「おいおい何だよ、そんな湿気たツラして! 大丈夫、お前は大西不動産の部長様なんだし、ちょっと本気出して捜せば、すぐに可愛い嫁さんも見つかるさ」
金野はそう言うと「じゃあ、これから式場の打ち合わせがあるから」と席を立った。
そして去り際に、とんでもない爆弾を放り込む。
「結婚式、友人代表でスピーチよろしくな! また連絡するわ」
「……」
鼻歌を歌いながら幸せいっぱいで去って行く親友の背中を、生方は真っ白い顔をしながら見送った。
◇
生方は、金野と付き合っていると思っていた自分の考えの浅はかさに、絶望していた。
小学生の頃から金野とは大の仲良しで、いつも一緒に遊んだし。
中学高校の間にも、恋人同士のように色々な場所へ行った。
テーマパークや映画館、旅行やイベントにもたくさん行った。
それに、金野とは――
(オレ達は疑似セックスのような事もしたじゃないか。オレを使って何度も素股を愉しんで、気持ちいいって言いながらイッてたくせに)
あんな事までしておいて、何故あっさりと、どっかの女と結婚するなんて言い出せるんだ?
生方は頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。
考えたくないが、答えは一つしかない。
生方は、金野とは恋人同士だと思っていたが、向こうはそうではなかったという事だ。
恋も仕事も全部が順風満帆だと信じていたのは、生方だけだったのである。
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