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101.一緒に、戦ってくれる?
これまであたしが思い描いていた、今後の道筋。
奨学金を元手に受験できる体制を整え、学費の安い、でもできるだけ社会的評価の高い大学を受験してそれなりの成績をとり、授業料免除の申請を行う。コイツの能力なら恐らく申請は通るはずだから、バイトを掛け持ちして生活費を賄いながら、それでなんとか勉強と生活を両立する。
柴崎泰広の能力をもってすれば実現可能性は十分にあるとはいえ、確証のない仮定や希望的観測に基づいた、かなりきわどい想定なのは確かだ。セーフガードがなにもないため、一つでも仮定が崩れたり、ケガや病気など突発的な事態が起きたりすれば、一気に生活が立ち行かなくなる。それでも、たとえ危険な橋を渡ってでも、コイツの能力は生かす価値が十分にある。そう思ったからこそ、多少の無理は承知の上で進学する道を選んだんだ。
でも、このきわどい想定を成り立たせるために、この家の存在は不可欠だった。
どんなボロ家であったとしても、こと東京において家という資産の価値は計り知れない。一等地の物件ともなれば、土地代だけでかなりの元手になる。万が一の事態が起きてたとしても、家を売ってお金に換えれば、急場をしのぎ次につなげることも可能になる。
しかも、この資産を失った場合、生活の拠点を作るために相当な対価を支払う必要が出てくる。つまり、毎月「家賃」という新たな支出が必要になるということだ。そうなれば、週末のバイトだけではとてもじゃないが全てを賄うことなんかできない。というか、学校を辞めてフルで働いたとしても、この不況だ。生きるだけでギリギリになるかもしれない。第一、新たな家を借りるには、それなりの初期費用も必要になる。現状、蓄財など無に等しいのだから、アパートを借りることもできずにネカフェ難民か路上生活堕ちになる可能性の方が高い。自炊もできず余計な出費が増え、健康を害する可能性だって出てくる。
要するに、今この家を追い出されれば、これまであたしたちが描いていた将来設計が全て成り立たなくなるばかりか、高校に通い続けることも、最悪、生き延びられるかどうかすら怪しくなるということなのだ。
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