101.一緒に、戦ってくれる?

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「わかったらそこをどけ。さっさと作業を終わらせてえんだよ」  鬼畜野郎は面倒くさそうに吐き捨てると、ぼうぜんとしているあたしを右腕で乱暴に押しのけ、上がり框に積み上げてあった荷物の塊を一つを抱え上げた。車に積み込むのだろう、開け放った玄関扉はそのままに、それを抱えて外に出ていく。  その刺激でとんでいた思考が現実に引き戻された。あわてて次にとるべき行動を模索する。  とにかく、この家をたたき出されるわけにはいかない。何を主張して、どう行動すればその事態を回避できるか……焼き切れる勢いで脳細胞をフル回転させてみるも、こういう種類の限界体験は初めてな上に、たいした知識も経験も持っていないあたしのような青二才に、最適解が見つけられるはずもない。ほとんど面識のなかった、初対面に等しい戸籍上の父親からいきなり退去通告を受けて自宅から追い出される寸前なんていう限界状況、ネットを漁ったとて類似事例は見つかりそうにない。そもそも、法的にそんな暴挙が許されるんだろうか。もしかして、法律に詳しい柴崎泰広なら、このあたりの是非がわかるんじゃないだろうか……。   その時ようやく、右手に握りしめた状態で放置していたクマるんの存在を思い出し、ゾッと背筋に寒気が走った。  緊迫した状況に気をとられて、避難させてやるのをすっかり忘れていたのだ。慌てて様子をみるも、気を失っているのか、ぐったりとして微動だにしない。トラウマのないあたしですらキツイのに、こんな至近距離であの鬼畜野郎に相対したのだから、とんでもない精神的負荷がかかったに違いない。気くらい失って当然だろう。すぐさま紙袋に放り込んでやればよかったと、怒涛のような後悔の念に苛まれ、クマるんを握る右手が震える。
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