101.一緒に、戦ってくれる?

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 この瀬戸際の状況下、あたし自身がいっぱいいっぱいで、何かしら心の支えが欲しかったのは確かだ。だから無意識に、彼を握りっぱなしの状態で事に臨んでしまったんだろう。  実際問題、あの鬼畜野郎をピンでなんとかできるだけの腕力も知識も精神力も自信も、残念ながら今のあたしには、ない。威勢のいい希望的観測ならいくらでも言えるけど、本当に実現できるかといえば不可能に近い。これまではどんな逆境も一人で乗り越えてきたと自負していたくせに、いざ勝率ゼロの戦いにピンで立ち向かう場面になったとたん、何かにすがらなきゃいられなくなるとか、要するにあたしの精神は、言うほどタフじゃなかったってことだ。 ――ダメじゃん。  あまりにも情けない事実を認識してしまい、ギリギリ保っていた気力の壁が崩れ落ちそうになる。  そのとき。  ふいに、あの時の柴崎泰広の言葉が脳裏をよぎった。 【僕は彩南さんに、もっと甘えてほしい】  ハッと息をのんで、思わず呼吸が止まった。 【困ったことがあっても、いつもいつも彩南さんは一人で解決しようとする。一人で悩んで、一人で困って……何でも一人で考えて、何でも一人で始末をつけて……僕ってそんなに頼りないんですか】  張りつめていた緊張の糸がほんの少し和らいで、凍りついていた思考がゆっくりと回り始める。  おもむろに持っていた紙袋を玄関の端に置くと、ぐったりしているクマるんを、携帯ごと両手できつく握りしめた。
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