101.一緒に、戦ってくれる?

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――ゴメン、情けなくて、恥ずかしいけど……もう少しだけ、ここで、こうして、あたしと一緒に、戦ってくれる? 気を失っているなら、大丈夫だと思うから……。  心の中で両手を合わせてから、思いを新たに呼吸を整える。  とにかく、即座に家を追い出される状況だけは、なんとしてでも回避しなければ。手のひらに触れている毛糸の感触を心の支えに、車に荷物を積み終え、門扉をくぐってきた鬼畜野郎に意を決して向き直る。 「いきなり出ていけとか、そんな勝手な話、聞けるわけがないんだけど」 「勝手だろうが何だろうが、聞くしかねえだろうが。契約が終わってんだから」  鬼畜野郎は足を止めるでもなくそう言うと、上がり框で崩れそうになっていた巨大な荷物を持ち上げる。  負けちゃダメだ。必死で有効そうな言葉を拾い、だだっ広いその背中に投げつける。 「いきなり未成年を路上に放り出すとか、それ、はっきり言って犯罪になると思うんだけど。あんたがもし本当に戸籍上の父親なら、あんたには、子どもの衣食住を整える保護責任が、……」  乏しい知識を振りかざして食い下がってみるも、柴崎泰広ほどの説得力も持たせられないばかりか、鬼畜野郎に保護を求めるとか、実現したらヤバすぎる主張をしてしまったことに気づいて、語尾が不鮮明に立ち消えてしまった。  鬼畜野郎はあたしの逡巡に気づいたらしい。服の塊を左手一本で抱え上げると、あたしを横目で睨め付けながら顔の下半分に悪魔的な笑みを浮かべた。 「へええ……おまえ、俺に扶養してほしいってか? この俺に? 構わねえよ。最終的には、おまえが俺を扶養する形になるとは思うがな」  全身の毛が一気に逆立つ心地がした。
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