101.一緒に、戦ってくれる?

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 その通りだ。コイツと暮らすということは即ち、コイツの身の回りの世話をさせられ、コイツの借金を返すために生きる奴隷に成り下がるということだ。大学進学どころか、高校に通い続けることだって不可能になるかもしれない。バカなことを口走ってしまった自分のわきの甘さに愕然として気が遠くなる。  そんなあたしを鼻で嗤うと、鬼畜野郎は踵を返した。 「ま、俺もそこまで物好きじゃねえし、おまえみたいなのと暮らそうなんてアホなことは考えてねえから安心しな。明日にでも養子縁組離縁届を持ってくっから、そこにサインしろ。それで、俺とおまえは晴れて縁もゆかりもない赤の他人になれる。おまえだって、その方が清々するだろ?」  鬼畜野郎の不気味な笑みを眺めながら、その言葉の裏にある真意を読み取ろうと脳細胞を必死でフル稼働する。   確かに、こんな鬼畜野郎との関係は切った方がいいのは確かだ。正直言えば、今すぐ切って目の前から消えてほしいくらいだ。  だけど、それはすなわち、この「家」という資産に関わる相続権をすべて放棄することと同義になるんじゃないだろうか?  家という資産を失ったら、柴崎泰広には本当に何も残らない。そんな状態で、この先何年無事で生き延びられるだろう? ギリギリで生きることだけはできたとしても、コイツが持っている高い能力をなにひとつ生かしてやることができず、貧困の鎖に足をとられながら、ただ生きていくだけの日々を送ることしかできなくなってしまうのではないか。持続可能な明るい見通しが何一つ思い浮かばない。  明るい見通しの持てない選択は全力で回避しなければならない。どうすれば穏便に回避できるか、どうすれば有益な方向につなげられるか……考えてはみるものの、相続などの法が絡んでくるとなると、問題が高次元過ぎてあたし程度の知識では手も足も出ない。どう考えても、専門家に助けを乞うのが最善だ。いくらかかるか知らないけど、相談できる専門家を見つけなければ。取りあえず、こんな玄関先ではなにもできない。部屋でじっくり情報を調べて策を練りたい。 「そのなんちゃらって書類が明日ってことは、とりあえず今夜はここで寝泊まりして構わないってことだよね」
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