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メガネがないせいか、ぼんやりとしか見えないけど、あの大きさで、あの形の箱は、まさか……。
思わず息をのんだあたしの様子に気づいたのか、鬼畜野郎は眉根を寄せてあたしの目線の先を追い、その目を大きく見開いた。
――ヤバい!
跳ね起きたつもりだったけど、半分意識が飛んでるあたしの反応速度などたかが知れている。あたしが左手を延ばした時にはすでに、四角い箱は、鬼畜野郎の武骨な手の中にすっぽりと納まってしまっていた。
ぼうぜんとしているあたしをよそに、鬼畜野郎は手にした箱をしげしげと眺めやり、無精ひげだらけの汚らしい口元に嫌らしい笑みを浮かべた。
「これだ、ずっと探していたんだが、こんなところに転がってやがったのか。なんたって、この家で唯一といっていい金目のもんだからな……つか、あいつもさっさとこれを金に換えてりゃ、死ぬ必要なんかなかったんじゃねえのか? まったく、つくづくバカとしか言いようがねえ女だな……」
冷静沈着な第三者なら、もしかしたらそのゆがんだ表情から、鬼畜野郎の抱いている複雑な感情が読み取れたのかもしれない。でも、今のあたしに、こんな豚野郎の内心を思いやる余裕なんてあるわけがないし、それ以前に、そんな偽善的な行為、しろって言われても到底無理だ。
「……返して」
「ああ?」
鬼畜野郎は鼻にしわを寄せると、あえて見せびらかすようにその箱を目の前にかざしてみせる。
「返せだと? 何を言ってる? これはおまえのモンじゃねえだろうがよ、クソガキが」
「あんたのモンでもないはずだよね」
「は? バカかおまえ。俺たちは夫婦だぞ? つまり、アイツのモンは俺のモンでもあるんだよ」
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