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10 タクシのプライド
アシュウィンは第3隊の隊員と第4師団の近衛兵が交戦中の裏門付近に来ると、吹き飛ばしたレヤンの姿を探した。
アシュウィンに吹き飛ばされて、立ち木に激しく頭部を打ち付けて気を失っていたレヤンは、ちょうど正気を取り戻したところだった。
「くっ、くそっ!あ、あの小僧……マントラ使いだったのか。
あんな奴がいるなんて情報は入っていなかったぞ。」
レヤンは頭を左右に振りながら立ち上がった。
マナサの攻撃で負傷した右肩と脇腹からの出血は止まっていなかった。
「おい、ゴリラ野郎。さっきの続きだ。お前だけは許さない。」
アシュウィンは両手を広げてレヤンの方に向けた。
い、いつの間にそこにいたんだ?
「ま、待ってくれっ!俺の話を聞いてくれっ!」
「何を聞けって言うんだ?問答無用だ。」
「ち、違うんだ。違うんだよ。俺だって、あんなことをしたくて、したんじゃないんだ。
うちの師団長のこと、知っているだろ?セシル師団長。」
「知らないな。ここにいるのか?」
「知らないのか?それは不幸中の幸いだ。今は正面の方にいるはずだ。
兵士長の俺が言うのもなんだが、冷血そのものなんだ。人とは思えない。
人の命なんて何とも思っていない。
人が苦しみながら死ぬところを見ることが趣味なんだ。サイコキラーそのものだよ。
そんな上官の下にいることがどんなに辛いか、考えなくても分かるだろう?
俺だって、好き好んであんなことをした訳じゃない。命令されて仕方なくやっただけなんだ。
分かってくれっ!」
レヤンは土下座した。
アシュウィンは、師団長のセシルの性格がどうなのかは別にして、敵の目の前でなりふり構わずに土下座している兵士が哀れに思えてきた。
「おい、頭を上げろよ。もう少し近衛兵らしくした方がいいんじゃないか?」
アシュウィンはレヤンに近づいて、立たせようとした。
「ふっ!」
レヤンは、土下座して下を向いたまま、近づいてきたアシュウィンの足元を確認すると、ニヤリと笑った。
「死ねやっ!」
レヤンは、足首に付けていた短剣を握り、アシュウィンの胸元めがけて突き刺してきた。
「うわっ!」
アシュウィンは、持ち前の反射神経で上体を反らすと、短剣のひと突きを紙一重でかわした。
そして、間髪入れずに『真達羅朱雀』を構え直すと、僅かに振り下ろした。
すると、『真達羅朱雀』は金属とは思えないほどにしなって、その反動で苦も無くレヤンの胸を貫いた。
「くっ……」
レヤンは、自分の胸に突き刺さった『真達羅朱雀』に視線を落としたまま、白目をむいて仰向けに倒れた。
ふう。危なかった……。外見のわりにしたたかな奴だ。
それにしてもこの剣は凄いな。まるでマナサが乗り移ったようだ。
アシュウィンは『真達羅朱雀』に畏怖の念すら感じた。
レヤンを倒したアシュウィンは、今まで裏門の戦況を確認する余裕がなかったが、改めて見回すと、第3隊がレヤンのいない第4師団を圧倒していた。
第3隊が裏口を解放するのは時間の問題だな。
アシュウィンは、小隊の任務が遂行されたことを確認するとマナサの元に急いだ。
◇
裏門付近で近衛兵を制圧したマナサの小隊
「よーし、施設の裏口を奪還したぞっ!!」
「うっしゃーっ!」
小隊は歓喜の雄叫びを上げた。
「みんな、裏口を塞いでいる岩をどけるぞ。」
「ああ、そうだな。施設のあちこちから黒煙が上がっているままだ。早く仲間を救出しよう。」
小隊の隊員は、一丸となって、裏口の扉の前にうず高く積まれた岩をどけ始めた。
そんな中、ある隊員が口を開いた。
「隊長が最初に斬り込んだ後、どうなったのか、知っているか?」
「いいや。体のでかい兵士と戦っていたはずだけど、どうなったんだろう。」
「隊長は大丈夫なのかな?」
「ああ、そうだ。
確か……あのアシュウィンとかいう新人が隊長を救出していたはずだ。
マントラを使って……」
「マントラを使える新人?」
「うん。確かにマントラを使っていた。」
「本当に新入隊員なのか?」
「うーん、よく分からん……」
「でも、隊長を救出していたということは、隊長はやられたということなのか?」
「いや、それは……」
「本当に大丈夫かな、隊長。」
「とにかく無事だと信じて、今は作戦を遂行しよう。
それが俺たちの任務だ。」
「そうだな。」
小隊の隊員が裏口の扉の前の岩を撤去し終えると、ようやく扉を開くことが出来るようになった。
「よし、開けるぞっ!」
小隊の隊員は、扉を開けて、施設の中に向かって叫んだ。
「みんな大丈夫かっ?こちらはマナサ隊長の小隊だっ!もう出て来ても安心だっ!」
「……おい、みんなっ!裏口が開放されたようだっ!」
施設の中から声が響いた。
そして、黒煙で両目を赤く充血させた隊員たちが、施設の中から警戒しながら外に出てきた。
救出された隊員の姿を目撃した小隊の隊員は、再び歓喜の声を上げた。
「みんな、無事なのか?」
小隊の隊員が施設の中にいた隊員に訊いた。
「いいや、無事じゃない。
近衛兵の弓矢隊に窓から矢を射られて負傷した者がいる。
それに、煙玉の黒煙で目や喉をやられた者も……」
「そうか、酷い状況だな。」
「ああ、負傷している隊員がまだ中にいる。早く救出しないと……」
「了解した。戦闘可能な隊員もまだ中にいるのか?」
「戦える隊員は、正面から出て、副長と共に戦闘中だ。」
「分かった。早速、負傷者を救出しよう。」
裏門では救出活動が始まった。
◇
林の中のマナサたち
シンは、横たわっているマナサの容態が急変しないか、慎重に介抱していた。
一方のタクシは、シンを手伝うことができない自分をもどかしく思っていた。
やっぱり、僕には何もできない。
せいぜい、敵が来ないか見張っているくらいだ。
アシュウィンが戻ってくるまで、敵に見つからないといいけど……
……えっ?
タクシが辺りを見回すと、施設の側面にいた弓矢隊が数名、こちらの方に近づいてくるのが見えた。
なんでだよ……
「シン、敵がこっちの方にやって来る。身を低くしてっ!」
「嘘だろ?こんな時に。見つかったら殺される。」
「しっ!静かにっ!気づかれるっ!」
身を屈めたタクシがシンをたしなめた。
「だって……」
「しゃべるなって……」
タクシは弓矢隊に全神経を集中していた。
「……行きなさい。」
「えっ?」
シンが振り返ると、マナサが口を開いた。
「2人とも敵が来ないところに避難しなさい。
今まで、ありがとう。本当に感謝しているわ。
さあ、手遅れになる前にここを離れなさい。
私は大丈夫。」
マナサは、2人が辛うじて聞き取れるくらいの弱々しい声で命じた。
「何を言っているんですか、隊長っ!
我々はこれでも第3隊の隊員です。お忘れですか?
隊長を残して逃げるなんて、そんなことできる訳がありません。
そもそも、私たちは隊長を助けるためにここに来たんです。
命令違反でもなんでもいいです。
絶対、動きませんよ。」
タクシの決意は揺るぎなかった。
それを聞いたシンも力強くうなずいた。
タクシは再び弓矢隊の動向を確認した。
くそっ!早くどこかに行ってくれっ!こっちに来るなっ!
タクシの願いも虚しく、弓矢隊は徐々に3人の方に近づいて来ていた。
「はっ、はっ……」
タクシは全身冷や汗でびしょ濡れだった。
呼吸も過呼吸になりかけていた。
どうする?どうすればいい?
僕はどうしたらいいんだ?アシュウィン、教えてくれ。
ダメだ。見つかるのも時間の問題だ。
このままじゃ、3人とも見つかる……
みんな、殺される。
何とかしないと。
考えろ、考えるんだ。
◇
「おい、あそこにいるのはレジスタンスじゃないか?」
「うん?本当だ。レジスタンスだ。あんなところに隠れていやがる。」
「よし。始末するぞ。全員、弓を構えろっ!
確実に狙えるところまで距離を詰めるぞ。」
弓矢隊の班長が命じた。
近衛兵団第4師団の弓矢隊5名は、弓を構えたまま、ジリジリとマナサたちに近づいて来た。
◇
よーしっ……
覚悟はできた。
タクシは、生唾を飲み込むと、手のひらの汗を太腿で拭った。
そして、天を仰いで深呼吸をすると、口を真一文字に結んで意を決したように立ち上がった。
すると、近衛兵の弓矢隊は、思いのほかタクシたちに迫って来ていた。
タクシは、全てが吹っ切れたように、近づいて来る弓矢隊を回り込むように駆け出した。
「おいっ!こっちだっ!」
「あっ、あいつ逃げ出したぞっ!追えっ!」
弓矢隊は反射的にタクシの後を追った。
よし、いいぞ。こっちに付いてきた。
できるだけ隊長から引き離さないと……
タクシは弓矢隊から必死に逃げ回っていたが、弓矢隊の放った矢のうちの1本がタクシの左太腿に突き刺ささった。
「うっ!」
タクシはもんどり打って倒れ込んだ。
それでも、アドレナリン全開のためか、さほどの痛みは感じなかった。
そうしている間にも、弓矢隊が近くまで迫って来ていた。
最後までしっかりとおとりをやるぞっ!
タクシは、太腿に矢が刺さったままで立ち上がると、手足を大きく広げた。
「僕はここだっ!
やれるもんならやってみろっ!」
「望み通りになっ!矢を放てっ!」
班長の号令とともに、弓矢隊はタクシめがけて一斉に矢を放った。
シュシュシュッ!
放たれた矢は、タクシの胸や腹に次々と突き刺ささった。
全身で矢を受け止めたタクシは、歯を食いしばり、目を見開いたまま、微動だにしなかった。
◇
アシュウィンは、裏門からマナサの所に戻ってくる途中、手足を広げて立ち尽くしているタクシの後ろ姿が視界に入ってきた。
タクシ、こんなところで何をしているんだ?
どうしてマナサのところにいないんだ?
アシュウィンはタクシに駆け寄った。
「タクシッ!何で……」
アシュウィンは次の言葉が出てこなかった。
タクシの前の方に回ると、タクシは何本もの矢を受けたまま仁王立ちしていた。
その充血した眼は近衛兵をじっと睨みつけている。
鼻と口からは鮮血が流れ出して、胸当てが深紅に染まっていた。
四肢は小刻みに震えて、痙攣しているようだった。
タクシの向こう側にいる弓矢隊は、もはや弓を構えることをせず、タクシの鬼気迫る姿にたじろいで動けないでいた。
状況を察したアシュウィンは、『真達羅朱雀』を抜くと、隙だらけで固まっている弓矢隊の間合いに飛び込んだ。
真ん中にいる指揮官と思わる近衛兵を上段から斬り付けると、返す刀で右側にいる近衛兵を袈裟切りに切り捨てた。
更に一歩踏み込んで、右端の近衛兵を逆袈裟斬りにして倒した。
アシュウィンは3人の近衛兵を瞬く間に倒してしまった。
残された2人の近衛兵は、突然現れたアシュウィンに驚き、慌てて剣を抜いたが、すでに手遅れだった。
アシュウィンは、2人が抜いた剣を構えるよりも早く間合いを詰めると、『真達羅朱雀』を最短距離で次々と突き刺した。
『真達羅朱雀』はアシュウィンの剣舞に呼応するように、切っ先の残像で朱色の曲線を空中に描いていた。
近衛兵がタクシの鬼気迫る姿にたじろいで動けなかったとしても、アシュウィンの戦い方は初陣とは思えない程の、さながら阿修羅のような戦い方だった。
まるで、『真達羅朱雀』の秘めた力がアシュウィンを操っているかのようであった。
タクシは、アシュウィンが弓矢隊を斬り倒したことを知ると、背中からゆっくりと大の字に倒れ込んだ。
「タクシッ!」
アシュウィンはタクシに駆け寄った。
「ア、アシュウィン……き、来てくれたんだね……よかった……」
「タクシ、しゃべるなっ!何も言うなっ!
俺がもう少し早く来ていたら、こんなことには……くそっ!
すぐにシンに来てもらうからな。ちょっと待ってろっ!」
タクシの傍らで片膝を付いてしゃがみ込んでいたアシュウィンは、マナサとシンの所に向おうとした。
「アシュウィン、待って。
もう少しだけ、ここにいてくれない?
隊長が気になると思うけど、シンがちゃんと看ているから……
少しだけ話を聞いて欲しいんだ……
僕はもうすぐ終わりを迎える……」
タクシは、矢が刺さったままの震える右手でアシュウィンの足首を力無く握って、上手く呼吸できずにゼイゼイと喘ぎながら喋っていた。
「タクシ、何を弱気になっているんだ。
気をしっかり持って、頑張れっ!」
「……ありがとう。でも、人って死期が近づくと分かるんだね。
僕に残された時間は長くなさそうだから、アシュウィンに僕の話を聞いてほしいんだ。」
「……分かった。」
アシュウィンは地面に腰を下ろした。
「アシュウィンが裏門に行った後、運悪く、僕たちの方に敵の弓矢隊がやって来て、危うく見つかりそうになった……
僕は足手まといにはならないとアシュウィンに約束したから、どうすべきなのか自分なりに考えた。
それで、隊長とシンを助けるためにおとりになって、近衛兵を僕の方におびき寄せたんだ……
そうしたら、このざま……
だから、アシュウィン、何も気にしないで。
僕が自分で考えて、自分の責任で行動して、こうなったんだから……」
タクシは自嘲気味に弱々しく笑った。
「タクシのしたことは誰にでも出来ることじゃない。
タクシの勇気は本当に凄いよ。」
「戦闘訓練もまだ始まったばかりだから、近衛兵を倒すなんてことは、僕には不可能だった。
……僕のしたことは正しかったのかな。」
「ああ、すげぇカッコいいことをしたぞっ!
俺なんかには真似できない。」
アシュウィンは目に涙を浮かべていた。
「そうかい?嬉しいな。
こんな僕でも役に立ってよかった……」
「ああ、タクシは凄いよ。
だって、近衛兵から隊長とシンを救ったんだから。
お前は俺たちのヒーローだ。」
アシュウィンの言葉にタクシは微笑んだ。
「……アシュウィン、お願いがあるんだ。
聞いてくれる?」
「何でも言ってくれっ!」
「隊長と僕の両親に伝えて欲しい。
ラーマの麒麟の隊員として恥ずかしくない最期だったと。」
「必ず伝えるよ、タクシの勇姿を。」
「ありがとう……
でも、もっともっと強くなって、シーラ副官に恩返しをしたかった……
……でも、副官は僕の事なんか覚えていないかな。」
「そんなことないさ。覚えているよ、タクシのこと。」
「それなら嬉しいな。
……ねえ、アシュウィン。アシュウィンには彼女がいるの?」
「彼女?いや、いないよ。」
「そうなんだ……
僕も彼女がいないんだ。
ああ……可愛い彼女が欲しかったなぁ……
手を繋いでデートしたかった……
それに、アシュウィンと友達になりたかったよ。」
タクシは弱々しい眼差しでアシュウィンを見た。
「タクシと俺は友達だろ?親友だろ?今さら何言ってんだ。」
「……」
「タクシ、聞いてるのか?」
「……」
タクシは何も答えなかった。
アシュウィンの唇は小刻みに震え、瑠璃色の瞳からは涙が溢れ出した。
「く、くそっ、くそっ……」
アシュウィンは拳で地面を殴り続けた。
◇
シンは、駆け出して行ったタクシがどうなったのか、気掛かりでどうしようもなかった。
タクシの後を近衛兵が追いかけて行ったところまでは見えたが、その先は木立に遮られてタクシの姿が見えなくなった。
「タクシはどうなったの?」
マナサもタクシのことを心配していた。
「ここからでは、どうなったのか分かりません。
ただ、近衛兵の姿も見えないので、一体、どうなっているのか……」
シンは、周りに注意を払いながら慎重に立ち上がって、タクシが走り去った方角に目を凝らしたが、人影は見当たらなかった。
「……そう。」
マナサは、アシュウィンやタクシ、そして第3隊の隊員のことが気になって、自分の怪我の痛さを忘れていた。
「戦況はどう?裏門か正面の状況は分かる?」
「正面の方はここからでは分かりません。
裏門は制圧できたようです。
裏口の積み石を取り除き始めています。」
「こちらの被害はどの程度?」
「はい。正確には分かりませんが、現在行動中の隊員の人数からすると、被害は数人かと思われます。」
「そう。最小限の被害で済んだようね。」
裏門の戦闘が収束したのなら、何故、アシュウィンは戻ってこないの?
何かあったの?
まさか……
マナサの脳裏に最悪の事態がよぎった時、シンが普段よりも甲高い声で叫んだ。
「あっ!アシュウィンが戻ってきましたっ!」
マナサは反射的に起き上がろうとした。
「痛っ!」
全身に激痛が走った。
マナサは自分が大怪我を負っていることを今更ながら思い出した。
「マナサッ!シンッ!」
アシュウィンは小走りで2人のところにやって来た。
「マナサ、大丈夫か?」
「私は大丈夫。気にしないで。アシュウィンも無事?」
「ああ、見ての通りだ。何ともない。」
「そう、良かった。
アシュウィン、タクシの行方を知らない?
敵の弓矢隊と遭遇してしまって……」
「……知っているよ。さっきまで一緒だった。」
「一緒にいたの?よかった。それで、タクシは?」
「タクシ、すげぇ立派な最期だったよ……」
「えっ?」
マナサとシンは目を見張った。
「近衛兵の弓矢隊相手に一歩も引かなかった。
自分ひとりで弓矢隊をおびき寄せて、ラーマの麒麟の隊員として最後まで闘い抜いた。
最初は林の中であんなに震えていたのに、タクシは真の戦士だった。
マナサ、隊長としてあいつを褒めてやってくれ。
本当に勇気のある第3隊の隊員だった。」
「タクシ、そうだったの……
私たちのために……
また、若い隊員が命を落とした……」
マナサは唇を噛みしめて、目尻から一筋の涙を流した。
「一刻も早く施設を奪還して、悲劇の連鎖を断ち切らないといけない。
だろ?マナサ?」
「ええ、そう。その通り。でも、私がこんな状態で……」
「うん……
イシャン副長は正面の方かな。解放された裏口から出てきた隊員の中にはいなかったはずだ。
マナサ、俺はこれから正面に行って、師団長のセシルだっけ?そのセシル女王様を倒してくる。
それで、この戦いを終わらせる。」
「アシュウィン、彼女の力を侮ってはダメよ。ただのサディストじゃないわ。
武術にも長けているの。伊達に師団長をやっている訳じゃないのよ。」
「だよな。俺もそう簡単に倒せるとは思っていない。
でも、副長やカマルさん、そしてモハンさんもいるから、マナサがいなくても何とかなると思う。
っていうか、何とかしなくちゃならないから。
現状、動ける奴が動く。そんな戦況じゃないの?」
「そうね、アシュウィンの言う通り。
でも、無理だけはしないで。お願い。」
「うん、無理はしないよ。
それで、一つだけお願いがあるんだ。」
「何?」
「この『真達羅朱雀』、もう少しだけ借りてもいいかな?
マナサの剣、俺にも相性がいいのか、いざ使ってみると、すげぇシックリくるんだよな。」
「いいわよ。
マントラの力を宿した剣は、使う人を選ぶの。
選ばれていない人が使っても、その特殊な能力を発動することが出来ないの。
アシュウィンは『真達羅朱雀』に選ばれたのね。
それに、この剣は鞭のようにしなるでしょ。だから、セシルが使う鞭に対して他の剣よりも適性があるの。
アシュウィン、本当に気を付けてね。」
「ありがとう、隊長。この戦いは俺にとってタクシの弔い合戦なんだ。必ず勝って、タクシの無念を晴らす。
じゃあ、正面へ行ってくるよ。
シン、もう少し、隊長のことを頼む。」
「うん、大丈夫。任せておいて。」
「よっしゃっ。闘志が沸いてきたっ!」
アシュウィンは、自分の両拳を数回合わせると、マナサを見てうなずいた。
そして、『真達羅朱雀』をしっかりと握りしめて、施設の正面に急いだ。
マナサとシンは心配そうにアシュウィンを見送っていた。
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