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『またな……』
神社の境内に着いた三人。
想汰君は、ご神体の裏に歩いて行った。
堪えていた涙が流れ出す美緒。
朝陽は美緒の頬をつたう涙を指で拭うと
「美緒……泣かないで。
俺は、笑っている美緒が好きだよ」
と言った。
「朝陽、行かないで。私を一人にしないで」
と動揺する美緒の頭を撫でながら微笑む朝陽。
彼の拡げられた両手が美緒を優しく包み込む。
朝陽の胸元に顔を埋め、目を閉じる美緒。
朝陽も、全身で美緒の感触を受け止める。
そっと重ねられた唇……。
その瞬間、二人を優しい光が包み込んだ。
その光に気づいた想汰君が境内の方向を見た
その時、彼の背後から声がした。
「そろそろ時間のようですね……」
想汰君が振り向くと、白いスーツを着た
時間を管理する『夜さり人』時人が立っていた。
時人が想汰君を見ると、彼の耳元でそっと
何かを囁いた。
一瞬 驚いた表情を見せた想汰君であったが
優しく微笑むと「約束します……」と呟いた。
朝陽と美緒の元に歩いて来た、時人と想汰君……
朝陽は美緒から離れると、
「じゃあ、またな……はないか……。
でも、元気でな」と優しく微笑んだ。
そして、
「美緒……」と呟くと同時に、時人と朝陽は
白い靄に包まれた。
「朝陽」と彼の名を呼ぶ美緒。
朝陽は優しく微笑み頷いた。
彼等を包んでいた白い靄は竜巻のように
激しく渦を巻き、しばらくすると、
白い靄は消え、朝陽と時人の姿も消えた。
ザワザワザワ……
境内に風が吹いた。
風は想汰と美緒の頬に優しく触れる。
美緒と想汰が夜空を見上げると、
夏の夜空にはキラキラと輝く満天の星空が
広がっていた。
美緒……十九歳の夏。 想汰……十二歳の夏、
『花火大会の夜』の想い出……。
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