夏の日の約束

1/1
前へ
/37ページ
次へ

夏の日の約束

「美緒先生~お願いだよ」 と美緒の前で手を合わせて拝む想汰。 「想汰君、何、どうしたの?」と驚く美緒。 「想い出が……ほしいんだよ~」 「は? 想い出? 何の?」 「夏の日の想い出がほしいんだよ。  高校最後の……想い出が……」 「想汰君、この前も言ったけど……  塾講師の私の立場上、  この塾の生徒の想汰くんとは  個人的に会うことは出来ないの! わかるでしょ?  そのくらい」と美緒が諭すように  想汰に話す。 「そのくらいわかってるよ……。  でも、俺も先生との想い出がほしいんだよ  あの夜みたいな……」と呟いた。 二人の会話のやり取りは、一時間も続いた。 なかなか、引かない想汰に困惑する美緒。 そして、とうとう…… 「わかったよ。行くよ。『花火大会』」 と美緒が言った。 「え? 美緒先生、本当?」と驚く想汰。 「何、驚いてるの? 想汰君が誘ったんでしょ?」 「やったぁ~! ありがとう先生!」 と拳を頭上に上げガッツポーズをする想汰。 その様子を見た美緒は、 「想汰君……一応、念のため言っておくけど、  これは、デートでも何でもないからね。  私は、仕事帰りに、花火大会に立ち寄った。  想汰君は、一人で花火大会を見に来てたら  たまたま、私と会って、一緒に花火を観た。  ただ、それだけ。いい? この約束守れる?」  と両手を腰に当てて美緒が言った。 「わかりました。先生! 約束します!」 と想汰は美緒の前で敬礼をした。 「まったく……今時の高三男子は……」 と呆れる美緒。 美緒は、その時、想汰がいつの間にか 朝陽が事故にあった年齢になっていたことに 初めて気がついたのだった。 想汰の姿に、あの頃の朝陽の面影が重なる美緒、 懐かしさと切なさが込み上げてくる……。 「じゃあ、美緒先生。来週末の『花火大会』  楽しみにしてるよ。先生、絶対だよ!  約束だからね」と言うと想汰は 美緒の前から歩き去った。 空を見上げた美緒、 そこには、夏の夜空に光る星々が 光を放っていた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加