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夏の日の約束
「美緒先生~お願いだよ」
と美緒の前で手を合わせて拝む想汰。
「想汰君、何、どうしたの?」と驚く美緒。
「想い出が……ほしいんだよ~」
「は? 想い出? 何の?」
「夏の日の想い出がほしいんだよ。
高校最後の……想い出が……」
「想汰君、この前も言ったけど……
塾講師の私の立場上、
この塾の生徒の想汰くんとは
個人的に会うことは出来ないの! わかるでしょ?
そのくらい」と美緒が諭すように
想汰に話す。
「そのくらいわかってるよ……。
でも、俺も先生との想い出がほしいんだよ
あの夜みたいな……」と呟いた。
二人の会話のやり取りは、一時間も続いた。
なかなか、引かない想汰に困惑する美緒。
そして、とうとう……
「わかったよ。行くよ。『花火大会』」
と美緒が言った。
「え? 美緒先生、本当?」と驚く想汰。
「何、驚いてるの? 想汰君が誘ったんでしょ?」
「やったぁ~! ありがとう先生!」
と拳を頭上に上げガッツポーズをする想汰。
その様子を見た美緒は、
「想汰君……一応、念のため言っておくけど、
これは、デートでも何でもないからね。
私は、仕事帰りに、花火大会に立ち寄った。
想汰君は、一人で花火大会を見に来てたら
たまたま、私と会って、一緒に花火を観た。
ただ、それだけ。いい? この約束守れる?」
と両手を腰に当てて美緒が言った。
「わかりました。先生! 約束します!」
と想汰は美緒の前で敬礼をした。
「まったく……今時の高三男子は……」
と呆れる美緒。
美緒は、その時、想汰がいつの間にか
朝陽が事故にあった年齢になっていたことに
初めて気がついたのだった。
想汰の姿に、あの頃の朝陽の面影が重なる美緒、
懐かしさと切なさが込み上げてくる……。
「じゃあ、美緒先生。来週末の『花火大会』
楽しみにしてるよ。先生、絶対だよ!
約束だからね」と言うと想汰は
美緒の前から歩き去った。
空を見上げた美緒、
そこには、夏の夜空に光る星々が
光を放っていた。
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