花火大会 前夜

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時人から言われたことを思い出す想汰……。 朝陽が、再度彼に聞いた。 「想汰、本当にいいのか?」 「何が?」 「だって、おまえ」朝陽が言葉を濁す。 「何だよ?」 「想汰……おまえ、美緒のことが好きなんだろ?  時間が交差してしまえば、おまえの中から  美緒と過ごした記憶は消えてなくなるんだぞ。  それでもいいのか?」  「いいんだよ。それでいいんだよ……。   でも、朝陽さん、一つだけお願いがある。   俺も美緒先生との想い出を作っても   いいかな?」  「美緒との想い出?」と朝陽が聞いた。    「記憶は無くなってしまうけど、   俺、好きな人と夏の夜空に広がる花火を   観てみたいんだ。   六年前の花火大会の夜に   朝陽さんと美緒先生が二人で並んで   観ていたように……。   一瞬でもいいから、   美緒先生との想い出を作りたい」   と想汰が言った。      朝陽は想汰を引き寄せた。   朝陽の胸に頭をつける想汰の目から   流れ落ちる涙……。      朝陽は想汰の頭を撫でながら、   「想汰……大人になりやがって……」   と言った。      「あたり前じゃん! 俺、もう、十八だぜ」   と口を尖らす想汰。   「そうだったな」と呟く朝陽。   「明日の『花火大会』    彼女……美緒先生、連れて来るから」    と想汰が言った。
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