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これからの時間
歩道を急ぎ走る男の子……
「あ~、間に合わない。
今日は日曜日だし人も多いし混んでるな。
そうだ! 車道の端を通れば……」
男の子が歩道から車道に出ようとした
瞬間だった……。
「おおっと~少年」誰かが彼の手首を握った。
男の子が振り向くと、高校生らしき男性が
彼の手首をしっかりと掴んでいた。
「君、車道に出たら危ないよ。
気をつけないと、車が来て接触したら
大事故になるよ」
そう男の子に伝えると彼が微笑んだ。
「ごめんなさい。お兄ちゃん……。
教えてくれてありがとう」
と男の子は答えた。
「わかればいいよ。じゃあな!」
と男性は男の子の頭を撫でるとその場から走り去った。
男性の後ろ姿を見送った男の子は、
鞄からスマホを取り出すと、
どこかに電話をかけ、
「もしもし、塾長ですか? 想汰です。
すみません、少し遅れます」と言った。
電話を切ると、彼はいつも通る歩道を
歩き出した。
「朝陽、遅いな~? 寝坊でもしたのかな?」
待ち合わせ場所に一人で立つ女性……。
彼女の前を白いスーツを着た男性が通り過ぎる
そして、すぐに一台の救急車が通り過ぎた。
「今、そこで、車が電信柱に衝突したらしくて、
運転手がケガしたみたいだぞ」
と誰かが言った。
彼を心配した彼女が、
スマホを取り出したその時、
彼女を呼ぶ声がした。
「美緒、お待たせ。遅くなってごめんな……」
と息を切らしながら、彼女のもとに走り寄る彼の姿。
「朝陽、遅い~」
と満面の笑みを浮かべる彼女……。
「ごめん! 今日は、一緒に行きたいとこが
あるんだ」と彼が言った。
「え~? 何処?」と彼女が聞いた。
彼は、ニコッと微笑むと手を差し出し
「行ってからのお楽しみ! 美緒行こう」と呟いた。
「うん、朝陽」と言うと彼女も
彼の差し出した手をしっかりと握りしめた。
二人は互いの顔を見ると、
満面の笑みを浮かべ、
真っすぐに延びた道を歩き出した。
朝陽と美緒……
高校三年生の秋……
その日は、秋風が心地良い快晴の日だった。
~ 夏の夜空に 完 ~
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