『先生……』

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『先生……』

今日も、塾でバイトをする美緒は、 担当の学生の勉強の指導をしていた。 午後三時…… 「先生、こんにちは」と想汰君が 元気に塾のドアを開けて室内に入って 来ると、席について学習の準備を 始める。 美緒がやって来ると、 「想汰君、こんにちは」と挨拶をした。 「こんにちは想汰君 じゃあ、昨日の続きから  はじめようか……」とテキストを開く美緒。 「はい、先生……」と笑顔の想汰君。 一時間、二時間……と時間は過ぎていった。 想汰君を担当する時間が終了した美緒は、 彼を塾の玄関外まで見送りに出る。 「想汰君、お疲れ様。また明日ね……」 と手を振る美緒。 想汰君が立ち止まり美緒に向かって言った。 「先生……あの……」 「ん? 何? 忘れ物?」と美緒が彼に聞き返した。 彼は首を横に振ると、 「先生……あの……花火見に行くの?」 「え?」想汰君の言葉に少し驚いた美緒。 「花火? どうしてそんなこと聞くの?」  と美緒が想汰君に尋ねた。 「今年は……花火見に行かないの?」 と想汰君が美緒に言った。 「う……ん、行かないかな……」 と美緒が返事をした。 「ふう~ん、そうなんだ」 と残念そうに想汰君が言うと、 「じゃあ、先生、また明日」と言うと 向きを変えて駅の方向へ歩いて行った。
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