古民家を選ぶ

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古民家を選ぶ

 うっかりしていた。  普段訪れることのない場所にふと足を踏み入れてしまった。  そこで私はとてつもない恐怖を感じた。  思い出してしまった。  子どもたちやあの家族が殺された場面の記憶が蘇った。  そうだ、怖いのは人間だ。  私はがむしゃらに脇目も降らず逃げた。  必死に走り何とか妻のもとにたどり着いた。  平静を装おうとしたが、妻は事情を察したようだった。  私は何も言えずに、ただこれから気をつけようとだけ言った。  それからしばらくは、なるべくおとなしく過ごすことにした。  気をつけさえすれば、こんなに快適な場所はない。  人間にさえ気をつければいいのだから。  今夜は妻が見たことのない食事を用意してくれている。  不思議な味だが、病み付きになりそうな味だ。  食事のあとにまた星空を見に行こう。  もうすぐ新しい家族も生まれる。  今度は家族みんなで星空を見て自然の中で思い切り羽を伸ばそう。  そんな話をしていると、妻が動かなくなった。  呼び掛けても返事がない。  死んでしまったようだ。  なんてことだ!  妻のもとに近付きたかったが、意識が薄れてきている。  そうか、あれは人間の用意した食べ物だ。  私たちを殺すための。  手足が動かなくなってきた。  ああ、せっかく妻も元気を足り戻して、これからやっと新しい家族と古民家での暮らしが始まるところなのに。  妻よ、申し訳ない。  せめて隣で死ねてよかった。  やはり人間は恐ろしい存在だ。  私たちのそばにはこれから生まれる新しい生命が眠っている。  子どもたちよ、先にいなくなる私たちを許しておくれ。  そして うまれてもけっしてちちとははをたべないでおくれ  でないとおまえたちまで
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