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 佐々木良文は一緒に死んでくれる女を探していた。心中ではなく道連れだ。そのとき渋谷の喫煙所で、松川絵里子と出会った。  取引先の女に好意を持って、何度も気持ちを伝えた。本気だとわかって欲しくて、駅で待ち伏せたりもしたが、受け入れてもらえなくて、つい声を荒げたりもした。  ある日、自宅に警察官が訪ねてきて、つきまとい行為だと警告された。次は逮捕だと。  そのせいで委託契約が解除になり、職も失った。愛する女に認めて欲しい一心で起業の準備もしていたが、どうでもよくなった。もう生きている意味がない。  そんなとき、目の前に現れたのが、松川絵里子だった。  何回目かのデートのとき、絵里子はいった。 「あなたと私が出会ったのは運命なの」  良文の決心は固まった。この女に一緒に死んでもらおう。  この日はドライブデートで、旅先の温泉旅館で一泊しようと絵里子には伝えてある。  レンタカーの運転席の良文に、助手席の絵里子が笑顔を向ける。 「ねえ、どこに連れてってくれるの?」 「それは着いてからのお楽しみ。さ、シートベルトして」  うん、と絵里子は、良文が密かに切り込みを入れたシートベルトを、ガチャリとはめた。 「じゃあ、行こうか」  良文はハンドルを右に回し、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。 ー 終 ー
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