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内科医と別れた翌週の土曜日、絵里子はふたたび占いの館を訪れた。
新宿のマリアに占いが的中したことを報告すると、彼女にとっては当然の結果なのだろう、新宿のマリアはベールの奥の目でうなずいた。
「今日はなにを占いますか?」
「ええ。理想の結婚相手を教えてください。外見とか職業とか」
新宿のマリアはこくりとうなずくと、しなやかにタロットカードを切りはじめた。
月の満ち欠けを施したテーブルクロスのうえに、四枚のカードが十字に置かれる。
「一枚目は過去、二枚目は現在、三枚目は障害や課題、四枚目が結果や解決策です」
西洋風の塔や月の絵だが絵里子に意味はわからない。
新宿のマリアが解説をはじめると、絵里子は身を乗り出して耳を傾けた。
「あなたと相性が良い男性は……勤め人ではないです。経営者や、飲食店のオーナーとか」
経営者と聞いて絵里子は口元がゆるみかけたが、神妙な顔を作った。
続けて説明された外見や年齢も、絵里子の条件にぴったりだった。新しい男への期待感が、内科医のことをすっかり頭の隅に追いやった。
新宿のマリアがテーブルのカードをカードの束に戻し、シャッフルする。
ベールの口元を微かに揺らし呪文を唱えると、手にしたカードを菱形に十二枚並べた。
「先生、これはなんですか……?」
「一番いい時期を見ています」
新宿のマリアは菱形に並んだ十二枚のカードのうえに反時計回りに手をかざし、一周させるとぴたりと手を止めた。
「三ヶ月以内に運命の男性に出会います。方角も見てみましょう」
新宿のマリアは十二枚のカードを束にもどすと、目を閉じながら再びシャッフルし、九枚を抜いて、やはり菱形に並べた。
これは東西南北だろうと、絵里子にも見当がついた。
「吉方は北西。総合すると、三ヶ月以内に北西の方角で出会う経営者、または自営業の人。このかたが運命の男です、あなたの」
絵里子は嬉しくて笑わずにいられず、顔を隠すように俯いた。
嬉々として占いの館をあとにする絵里子の後ろ姿を見やり、新宿のマリアはベールの下で、口元を歪めた。
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