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新宿のマリアこと中村麻里亜は、占いの腕に自信があった。
あれから三ヶ月。
あの女、松川絵里子は運命の男と出会っているだろう。
絵里子とはじめて対面したとき、きつい香水が鼻についたが、厚めのメイクのせいであの女だとは気づかなかった。
しかし、名前と生年月日のメモを見て驚いた。あらためて顔を観察したら、意地悪そうな顔つきは、中学生のころと変わっていなかった。いやむしろ、より性根の悪さが滲みでていた。
一瞬にして中学時代に引き戻されたような気がして、心臓の鼓動が速くなった。絵里子に悟られやしないかと肝を冷やしたが、顔を覆うベールのおかげで平静をよそおうことができた。
絵里子の顔立ちは二十年前と変わらず整っていた。ハーフでもないのに西洋風の美人で、中学のころから体もすでに成熟していて、大人の女のそれだった。
社交的で運動神経も抜群で華があった。絵里子が向日葵なら、地味な麻里亜は日陰の雑草。何人もの男子が絵里子に告白しては玉砕していた。
当時からあらゆる占いに精通していた麻里亜は、絵里子の本性を見抜いていた。自己顕示欲と承認欲求の塊だということを。それゆえに、近寄らないようにしていた。
絵里子とは接点がないまま、卒業するだろうと思っていた。
ところが、麻里亜が二年生に上がった一学期のとき、絵里子が想いをよせていた男子から、麻里亜が告白されたのだ。
サッカー部の子で名前は忘れた。小麦色の肌に白い歯だけが印象に残っている。
麻里亜は男子に興味がなかったので交際を断ったが、絵里子の癇にさわったようだった。
麻里亜が人気者の絵里子になびかないことがそもそも気にいらなかったのだろう。そんな女に片思いの男子を奪われた。
絵里子が数々の男子からの告白を断っていたのも、サッカー部の子に片想いしていたからだ。
しかし、皮肉なことに片想いの相手が麻里亜に告白して、しかも振られたのだ。
麻里亜はいじめの標的になった。上履きが生ごみのなかに捨ててあったり、学生かばんに残飯が入っていたり、体育の授業が終わって教室に戻ると制服のスカートのお尻の部分が刻まれていたりした。
悪知恵が働く絵里子は自分では手を下さず、取り巻きを動かして学校での麻里亜の居場所を無くしていった。
半年以上クラスの誰とも会話をすることがなく、心を病み不登校になった麻里亜は、転校した。
十四歳にして人間不信になった麻里亜は、転校先でもその後の高校でも同級生に心を開けずに友達ができなかった。
幼い頃からの唯一の趣味である占いだけが心の支えだったが、あるとき、人間関係で悩んでいた母の友達を占い、思いきってアドバイスをしたところ、問題が解決に向かいとても感謝された。麻里亜ちゃんの占いは当たるとの噂が広まって、少しづつ人のために占う機会が増えて、気がつけば仕事になっていた。
新宿三丁目の店はいつも順番待ちの列が続き、九州や北海道からもお客さんが来る。今や”新宿のマリア”は評判の人気占い師だ。
自分の占いで相談者の心がほんのすこしでも軽くなり、事態が解決に向かうことが麻里亜の願いだ。相談者が笑顔で報告に来てくれると麻里亜も幸せになる。
でも、松川絵里子に対する復讐心は、ずっと心の奥深くで燻っていた。
思いがけず、復讐の機会を得た麻里亜は、はじめの占いでは絵里子に正直に結果を伝えた。もちろん予言どおりになり、絵里子は麻里亜を信じた。
二回目の結婚の占いでは、すべてが裏目に出る結果だけを選んで、絵里子に伝えた。
人と人の相性には、最高もあれば最悪もある。蟻地獄のように、禍に引きずりこまれる出会っては行けない運命の相手もいる。
絵里子が自分で手を下さずに麻里亜を追い込んだように、麻里亜も自分の手を汚すつもりはなかった。絵里子に禍をもたらす最悪の運命の男が、自分の願いを叶えてくれる。
麻里亜はベールの下の口元をゆがめ、すこし嗤った。
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