2・アイドルがいる国へ

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入った瞬間の熱気。 ステージの上はきれいな赤い色をまとう人達が舞いながら歌う。 それは人とは思えない美しさだった。 その下にはステージに向けて 一生懸命手を広げる人、声を出す人、祈る人、笑顔を向ける人 全員がキラキラとしている。 実際に、そのキラキラが体中からでて、ステージの上に重なっていく。 何が起きてるのかわからないけど、 あまりにも美しくて、 ついつい前に行きそうになるところをリュカに止められる。 「メイリア。こっち見ろ。」 リュカはわたしの肩をもって ぐいっとリュカとグレッグのいる方向に体を向ける。 「わたしもあっちに行きたい。もっとみたい。」 頭の中がほわーっとして、ステージが頭から離れないわたしは ステージに顔を向けなおした。 美しいんだもん。まだ見たい。 あの中に入りたい。 はぁ、という声がしたかと思うと、 リュカに顔を両手でぱちんと挟まれて叩かれる。 「いったーい!リュカ!なにすんのよ突然!!」 「はぁ、やっと戻ったか。ほら外出るぞ。グレッグじい扉開けて。」 いたくてぎゃあぎゃあいいながら、 わたしはリュカに腕を引かれて、外に出てきた。 「どうでしたか?メイリアさん?」 「どうでしたか?じゃないだろ、グレッグじい、わかっててやったな?」 リュカがグレッグさんに呆れながら怒る。 何が起きてるのやら、 というかなんでわたしの頬を叩くわけ? 「リュカ!それよりなんでわたしの顔たたくのよ!  痛かったじゃない!」 「それは、メイリアさんが正気を失っていたからですよ? リュカはそれを戻すために仕方なく、やったんですよ。 まぁ、顔は触りたくてでしょうけどね。」 「グレッグじい!そんなことするわけないだろう、  顔が一番効果的なんだよ!  メイリア、お前はあの会場に何の免疫もなく、  なんの装備もなく入ったから当てられちまったんだよ。  それを、正気に戻すためにやったことなんだから、  むしろ感謝してほしいくらいだ。まったく。  じいさんもじいさんだからな。  あんなところ突然入れられたらおかしくなるわ。」 リュカは怒っているけど、グレッグさんはにやにやと笑っている。 顔をはたかれたわたしを置いていかないでほしいわ。 「何が起きたのかそろそろ聞いてもいいかしら?ふたりとも?」 グレッグさんは仕方ないなと肩をすくめた。 さっきとは違ってまるで少年のようだった。 「話をきくよりも体感したほうが早いとわたしは思っただけですよ。  ふたりでそんなすごまなくてもいいのに。  神さまごとの祭壇は祈りのスペースになっているんです。  舞台の上では、神さまに半年に一度選ばれた人間から  構成させたグループが祈りの歌と舞いを演じます。  この選ばれた人たちを“アイドル”と呼びます。  崇拝するべきは神ですが、目に見えないと意識ができなくなるのが  人間というもの。そこで、イルミナ教ではその神の偶像として、  “アイドル”が存在します。目に見えて、  自分の近くにいる神に近いものというところですね。」 聞いたこともない信仰の方法で驚いた。 確かにキラキラとして、神々しいといえばそうとも言えるし、 あのみんなの熱狂具合も神に対するものだとすればわかる気もする。 「そして、舞台の下にいたのが、“ファン”です。  この神や“アイドル”への熱狂的信者ですね。  ファンの皆さんがいろいろなアイテムを  身に着けていたのは見えましたか?」 「はい、ファンの方はみんな同じ羽織を着て、  手には何かスティックのようなものを持って、  眼鏡をかけていました。みんなおそろいでしたよね。」 「さすが、よく見ていますね。観察眼すばらしい。」 グレッグが笑顔で拍手をする。 「みんながお揃いなのは意味があるんですか?」 「祈りの時間、あの部屋に入るときには  装備をすることが必須になっています。  アイドルが発する祈りの力や光はかなり強いですし、  みんなの力が集まるとより聖力が発動してくるので  それから自分を守る役割があります。  ステッキに関してはファンの人のエネルギーを  貯めるアイテムで、祈りが終わったら、  出口で一度回収をしていくんですよ。」 ほぉと感心していると、中から人が出てきた。 祈りの時間が終わったみたいだ。 でてきた人はみな、汗だくだが、満たされた顔をして出てくる。 穏やかな優しい表情だ。 「あんな熱気の中にいたのに、あんなに元気なんですね、みんな。」 「そうなんですよ。確かに聖力を集めてはいますが、  実は循環してるんです。  音がとても響いていたでしょ?  アイドルが歌う歌は、神の歌で、その音も舞いもすべて、  神聖なものなんですよ。その中にいるだけで、  体の細胞一つ一つが震えて、  浄化とエネルギーが調う(ととのう)んですよ。  きれいになった体に神聖な力がしっかりと入ってくるから、  出てきた人はみんなあんな感じなんです。」 「エネルギー満タン、充電されてきたってことか。  これは確かに効率がいいですね。  教会はエネルギーを得られて、ファンは浄化されて満たされる。  だから、あんなに人が居るし、  これだけ信仰心が強いのも納得ですね。  教えだけでなく、体感できるんですから。」 エネルギーの問題って、 どこの町や国に行っても頭を抱えるようなことが多い。 それに、宗教だってそれによって争いがおこったり、 仲間割れなんかもあるのだけど、 この町ではそういう雰囲気が一切ない。 “アイドル”と“ファン”はみんな WIN・WINの関係になっているのだ。 「不思議―。おもしろい。」 思わず、口走ったら、後ろから大きな声が聞こえた。 「あーーーー!!リュカだー!!」 ダダダダダダと足音が聞こえて、 横に立っていたはずのリュカが視界から消える。 ひぃ!!何事!!と横を見ると、 赤い服を着た女の子がリュカの上に乗っかっていた。 はい? 「いたたたた。おい、セイラ!お前、カリヒさまに  選ばれたんだからそういう行動をもうやめろよ。」 「いいじゃん、セイラはセイラだもん。  カリヒさまもこんなセイラだから選んだんだしね。」 セイラはリュカに改めて抱き着く。 「ほうほうほう。リュカさんも隅ににおけませんな。ほうほう。」 わたしはニタニタとしながら、 あごに手を添えてうなづいてしまう。 このセイラさんはどっからどう見たって、リュカさんラブ。 L・O・V・E、ラーーーーブやないかい!! かわいい子がおじさまにぎゅっとか可愛すぎるやろー!! 「メイリアさん、全部口に出して、何やら叫んでますよ。」 グレッグさんに指摘されて我に返る。 「はっ!わたしとしたことが!こういういわゆるキュンな出来事は  いままで本や漫画でしか見聞きしたことがなく、  思わず取り乱してしまいました。かたじけないでございます。」 「ほほっほ。まだ言葉おかしいですが、  メイリアさんはやはり面白い方ですね。  さすが、リュカさまがつれてきただけはある。」  と、グレッグさんが言った瞬間に、 リュカさんに抱き着いている美少女が 首をぐるりと回して、こちらを見てくる。ホラーかな? 「リュカが連れてきた女?は?誰?どういうこと?」  美少女は一気にホラー映画のお化けのごとく、 わたしのほうににじり寄ろうとしてくる。 ええええ?え?なに?わたしもうここで死ぬわけ? 「ただ、この町について知りたいと思っているところに、  あなたさまのリュカ様がご親切にも、  せっしゃをここに案内してくれただけでやんすから!  どどどど、どうか命だけはとらないでくれろ・・・・・。」 あまりの怖さに、ひぃとひれ伏す。 美少女のホラーと暴力反対、ダメぜったい!!  怖さマシマシすぎるー! 「あんた、どこの誰なわけ?」 美少女まだまだすごんでくるー。 長いワンレンが逆にこわーい。泣 「わっわわわたくしは、隣町からまいりました、  メイリア・ハロミスタです!  先祖代々の意味不明な決まりにより、  愛する人を一年以内に見つけられない場合、一族を  追放になってしまうため、どうにか方法を探すために  この町にやってきました!!  よろしくお願いします!!趣味特技、仕事です!」 「年齢は!!?」 「35歳です!!」 「よーーーーーし!!」 「はい!!」 美少女はようやく機嫌が直り、笑顔になった。 こわかった。死ぬかと思った。 「ここ、これがカリヒさまの力・・・?」  行き絶え絶えになりながら、 グレッグさんを見ると首を横に振っている。 「メイリアさん、これは違います。ただの嫉妬と執着です。  さ、セイラ、いい加減にして、こちらにいらっしゃい。」 「はーい。せっかくリュカといいところだったのに。」 正常?に戻ったセイラがこちらにやってくる。 「先ほどはどうもメイリアさん。わたしはセイラ。  今はカリヒさまのアイドルをしているわ。よろしくね。」 「はい、こちらこそよろしくお願いします!  アイドルさんに直接会えて感激です!!」 おもわず頭を下げるわたし、まだまだ体に染みついた  怖さが残っているおそろしきアイドル。 「いや、これアイドルの力じゃなくてセイラの威圧感だから。」 ようやく、リュカが戻ってきたが、  リュカの腕にはセイラがまとわりついている。 「そうなのね。セイラさんあまりにこわ、、いえ、美しいから  ついつい頭下げちゃうは神々しいっていうのかしら?  それとも地元のヤンキーの先輩感っているのかしらね?そんな感じ?」 「ところで、メイリア、あのハロミスタ家の人間って本当なのか?」 「あ、今は(仮)だけどね。破門されそうだから。」 忘れていたこのルールに思わず遠い目になるわー。 思い出させないでよね1日目なのに。 「本当なんだな。それなら、役場でのあのやり取りも、  うなづける。なんですぐに言わなかったんだ?」 「いや、家の話なんてふつうしないでしょ?  それに今は働いてないし。」 「ちょっと、ふたりで話すのやめてもらえる?  セイラもいるんですけど?」 「セイラ、いい加減に離れろ。話の邪魔だし、  次もあるんだからちゃんと休め。」 「リュカ、心配してくれてるの?うれしい。  休む休んだらほめてくれる?」 「あー、すごい、すごい。」  棒読みでセイラの頭をなでるリュカに、 頭を撫でられてニコニコのセイラ。 まるで飼い主とネコみたい。かわいい。 セイラはおとなしく、もどることになった。 「じゃあね、リュカ。また、今度ね。  あと、メイリアさんごめんねさいね。  てっきりリュカを狙っているクソ女かと思って威嚇しちゃった。てへ。  まさか、あの有名なハロミスタ家がぁ、  そんな薄汚いことしないし♪、  35歳の女に負ける気もしないしぃ。  また会うことがあればー。じゃあね。」  前言撤回、とんでもないわ。猫じゃないわー。 それなら化け猫だわ。 あっけにとられてぽかんとしていると、 今度はみどり色の服を着た人がやってきた。
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