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オートに揺れながら、ぼーっと外を見る。
はぁー初日から濃厚だった。
神さま、アイドル、聖女。
この街について知りたかっただけなのに
とてつもない情報量。
でも、これから住むこの街は
まだまだ知らないことがいっぱいあって
楽しみでもあるのよね。
「メイリアさん笑ってるんですか?
疲れて寝てるのかと思いましたよ。」
ハリムがわたしの方を覗き込む。
「え?わたし笑ってた?」
「はい。笑ってましたよ。やっぱりメイリアさんは特別なんですね。こんな状況で笑えるなんて僕にはできないですよ。」
「特別かどうかはわからないんだけど、なんかちょっと大変なときこそ、面白がった方がいいと思ってるのよね。その方が楽しいでしょ?」
「はぁ、やっぱり特別ですよ。僕はなかなかそうは思えるタイプじゃないんで。」
ハリムはため息をついて、頬杖をついて外を見る。
「そう思えるタイプじゃないんだ?
意外ね?アイドルやってるのに。」
「はぁ。それよく言われれます。でも、ぼくは別にアイドルになりたくてなったわけじゃないんで。」
「へー、アイドルはてっきり志願制かと思った。みんなキラキラじゃない?」
「みんなキラキラですよ?
そりゃあアイドルですからね。」
ハリムがツンツンした感じの話し方になっていて可愛くて、思わず口角があがる。
「なに、わらってるんですか?」
「いやいや、ハリムも、年相応なんだなぁって思ってな。教会ではなんか優等生だったじゃない?落ち着いてる感じ?」
はぁーーーー
深いため息をつくハリム。
お怒りかしら?と思ってもう一段口角をあげる。
スマイルは世界を救う。
「落ち着いていて、言われて通りにしてしまったら優等生ってことですか?」
ハリムが貼り付けたような顔をわたしの方に向けてくる。
ひぃーこわい。首を横にプルプルとふる。
「ぼくだって、ちゃんとそれなりに自分の意見持っていますし、言われた通りにだけしているわけじゃないですし。」
さっきまでの穏やかな雰囲気ではなく、むすっとすねた姿は年相応な弟のようで頭を思わず撫でた。
驚きはしたもののなにやら落ち着いてきたハリムはつづける、
「でもそんなことも知らない叔父さんが昔なりたかったアイドルの夢が諦められずぼくを推薦したんです。教会に連れてかれて今日メイリアさんがやったような流れで確認されて、あれよあれよと今アイドルです。当時はおじさんが喜んでくれるならと思ってましたけとね。」
「ハリムは今アイドル歴は何年くらいなの?」
「ぼくは15年やってます。10歳からはじめて今25なんで。」
「あら、わたしとハリム同期なのね。その若さで15年だなんて!」
「まぁ、年数はそうですけどね。周りに言われたままはじめただけなんで。」
ハリムはちょっとさみしげに笑う。
なんかわかるなぁ。自分がやりたsくてやってるわけじゃないことで評価される時の微妙さというか切なさというか。
「自分と周りに温度差が生まれてるとさ、自分が置き去りになってなんか何やっても釈然としなくなるよね。わかるー。本当の自分じゃないみたいなさ、気持ちになってね。」
「はい、周りが作った自分が評価されて自分が自分じゃないような。メイリアさんにもそんなことあったんですね。」
「あるよー。家族はわたしに幸せな家庭を築いてもらいたいから、わたしの家庭的な部分を褒めようとするし、評価する。でも、わたしは家族がやってる仕事の方に興味があってね。」
「その時、メイリアさんはどうしたんですか?」
「わたしは正直に伝えた。そしたら家族はそれも応援してくれて、仕事をどんどん任せてくれて、まぁそれで今呪いにかかっちゃうほどやっちゃってお父さまは泣いてるけどね。」
お父さまを思い出して笑うメイリア。
「そのときわかったの。周りの評価を作ったのはわたし自身。ただの思い込み。
だから、そんなもの気にしなくていい。わたしがやりたいようにすればいいんだったーってね。だから、ハリムも好きにしたらいいのよ。メイリア調べですけどね。」
そう、わたしを制限するものなんてなかったのに勝手にカゴの中に入って、毎日ピーチクパーチク騒いでいた。
でも、パッと一歩踏み出せば、なんだそんなものなかったんだって軽やかになってもっと家族や仲間たちを愛おしく思ったものだ。
懐かしい記憶。
じっと頬杖をついたままわたしの方をみているハリム。
「正直にかぁ。それが1番難しいかもしれないですね。やっぱりそれができるメイリアさんは特別ですよ。」
「そうかな?ハリムもきっとそのうちにパチンと来る時が来ると思うよ。なんせわたしはあなたより10年先を歩いてるからね。これからこれから。」
「メイリアさんぼくのこと子供扱いしてますね?」
ハリムがまたむすっと少年のように膨れる。か、かわええと思う気持ちをぐっとこらえて返す。
「そんな子どもだなんて思ったことはないわ。可愛さはあると思うけど、
初めて会った時から紳士的で、圧倒的な推しになりかけたし、笑った顔もきれいだし、さらっと気配りしてるし。仲間の面倒もみてるし、今みたいなかわいらしさも魅力的ね。そうそう、ハリムが水晶に手を当てた時の緑色の光の安心感と美しさを思い出しただけで心が穏やかになるもの。あなたもわたしにとって特別な人よ。先輩?」
ハリムの美しいみどりの光に包まれたのを思い出すと胸が暖かくなる。もちろん神さまの力だと思う。
けど、その媒介としてのハリムのやわらかさがあるからこそだと思う。
「うん、やっぱりハリム、あなただからラヒトさまに愛されたんだわ。あなたの光はとても気持ちいいもの。」
ハリムをみると頬を紅潮させて、わなわなと震えている。
「え?ハリム?大丈夫?泣いてる?」
「泣いてません。恥ずかしいんです。よくもそんなことをつらつらと。もう着きましたから。」
「なんで?ただの事実よ。まぁ、まだ少ししかいないから、まだまだあると思うけど。」
「はいはい、わかりましたから降りてください。」
オートから降りて家の前につく。
優しいおだやかさなハリムではなく、
感情的に話す姿は可愛い弟で微笑んでしまう。
「ハリム、送ってくれてありがとう。とても楽しかったわ。
また良かったらおしゃべりしましょうね。」
メイリアはハリムにハグをする。
ハリムはぎこちなく、抱き返した。
「はい、また。ありがとうございました。」
ハリムは頭を下げて、またオートに乗って教会に戻った。
「なんだ、ハリムわかりやすいじゃない。」
メイリアはオートを見送りながら笑ってしまった。
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