2・アイドルがいる国へ

2/14
前へ
/25ページ
次へ
あのあと、男性が”カリヒさま”と言って私にひざまずいたことで 大騒ぎになった。 「カリヒさまがあらわれたぞー!!」 「カリヒサマハドコダー!!」 とわーっと、一気に人が押し寄せてきて、しちゃかめちゃか。 ひぇぇぇえええーと思って目をつむった瞬間に 腰に手をあてられて横に引っ張られた。 カリヒさまと言ってごった返した人々が一気に遠ざかる。 なにが起きているのかわからず、 上を見上げると、わたしより少し年上の男性が呆れた顔で わたしを役場の外まで連れてきてくれた。 役場の中は相変わらず、カリヒさまーという声が聞こえている。 「あの、ありがとうございました。」 男性にわたしは頭を下げた。助けてくれたんだよね? 「はぁー。」 ん?なにこのあきらかに迷惑というため息。 「あなたは世の中の何も知らないかわいいお嬢さまか何かですか?  どこぞのお姫さまかなんかですか?その年でありえないだろうけど。」 貼り付けたような笑顔で、馬鹿にしたような口調で話しかけてくる男。 「はぁー?あなたこそ、なんですか?  はじめて会ったばかりなのに失礼すぎてめまいがしてしまいそう。  いい年して、そんな分別もつかないなんて。  あれ?もしかして、わたしより、すーーごく年下でちゅか?  そうだったのなら、ごめんなちゃいね。」 相手の表情は少しも変わらず、貼り付けた笑顔のまま。 なんなんだこの人、なんて失礼なの!腹立つー!! ありえない!一瞬きゅんとしたわたしよ! カムバーーックアンドホーム! 「なんなのって、あんなところで、  あんなことやってしまったおバカなあなたに  本当のことを言ってるだけですよ。」 「その張り付けたような、笑顔やめてくださる?  薄気味悪い。なんなのよそれ。  意味が分からない。わたしのどこがバカだっていうの?  それの説明もせずにレディを責め立ててくるとか  どうやって育ったらそうなるのかしらね?」 彼はぴたっと笑うのをやめた。 「あんたそれ本気で言っているのか?」 そう言って、突然変な笑顔ではなく、 不思議そうな顔でわたしのことをじろじろと見てくる。 「なんなのさっきから。こっちは本気も本気よ!  薄気味悪い笑顔で笑ったり、人をじろじろ見たり。  あなたのほうが、おバカさんなんじゃないの?」 ふんっ!と鼻息荒めに丁寧に(?)伝えてみた。 今度はわたしの言葉に驚いた顔をして、笑い始めた。 本当に失礼すぎて、わたしはむっとした。 「本当にここに来たことがないんだな。 俺にむかってバカとかいう人初めてだよ。」は?なに? 意味わからない。この人頭おかしいんじゃないの? って顔をして彼を見る。 「あなた何様なの?  ”俺にむかってバカとかいう人初めてだわ”って  恥ずかしー!どんな性格してんのよ。このひん曲がり。  わたしもう帰るわ。助けてくれたことはありがとう。   でも、二度とあなたとは話したくもないわ。」 そう言って、わたしはその場を去ろうとした。 もう、本当に頭来るわ。なんていう俺さま。 わたしよりも年上な感じだし、助けてくれたし、 ちょっとはいい顔してやろうと思ったけど、 あの言い方ありえないわ。 どうなってるのよ、この町は。 「なんだ。この国のことを知りに来たくせに  なにも得ないで帰るのか?  バカなだけじゃなくて、  忍耐力もないんだな。その年で。」 「あなた、さっきから”その年で”って失礼なこと言っているけど、  あなたのほうがわたしより年上よね?  それに、あなたここの住人でしょ?  なのに、何も知らないわたしにそんな態度取って恥ずかしいと思わないわけ?  あーあ、せっかく楽しみにこの町に来たのに、  初めて話した人間がこんな失礼だなんて。  初日から、この国で生きていける気がしないわー。」 はぁと今度はわたしがため息をついて、倒れるようなしぐさをとる。 「楽しみにしてきたのか?この国に?」 ん?なにそこが気になるわけ?何なのこの人。 「えぇ、そうよ。楽しみにしてきたわよ。  お母さまなんかはわざわざおすすめの場所なんかも  ピックアップして渡すくらいに好きな町みたいだし。  わたしははじめてだけど、家族が代々おすすめしている島国  楽しみにしてたに決まってるじゃない。」 そっか、と言って彼が突然、話さなくなった。 これは好都合!と思って、わたしはその場を離れようとした。 「おい、待て。わかった。俺がこの国について教えてやる。」 「いえいえ、そんなあなた様の時間を割いてもらうなんて  とんでもないことでございます。  わたし、こんな年で、いらないこと言っていることも  気づかないおバカみたいですから。」 彼は焦った様子でわたしを止める。 「す、すまなかった。」 突然頭下げてくるとか、反則じゃない? 白髪交じりの頭下げてくるとか反則じゃない? 「あなたが、てっきり、この国にケチつけに来たのかと思って。」 「わたしがケチつけになんてありえないです!なんでそんなことを?」 「ハロミスタ家が栄えさせたこの町には、何とかしてそれに乗っかろうとして、  無茶な開発とか、ハロミスタ家に取り入ろうと意味の分からない事業を  無理に始めようとするやつが多いんだ。 魔法の印を使うから、あなたもその一つかと思ったんだ。」 え?あ?なに?そんなこと起きているの? 「え?ハロミスタ家の影響でそんなことになってるの?魔法の印つかわないの?」 「どうしようもない奴っていうのが世の中にはいるんだよ。手を動かさないで乗っかって儲けたいみたいな人がね。うちの国は島だから少し遅れてて、魔法でも見せてやったらなんとかやれると思うやつがいるんだろ。」 「で、わたしがこうしたら?と言ったことがその人たちみたいだったからあんな態度をとっていたのね。わたしも、何も考えずにごめんなさい。」 なんだ、この人はこの国が好きなんだな。 やり方が粗いことは腹が立つけど、まぁ、許してやるわ。 と、思ったら、わたしも思わず謝ってしまった。 「で、町のことに詳しいあなたは、わたしに町のことを教えてくれるのかしら?」 「もちろん、よろこんで。」 彼は笑ってわたしの手を取った。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加