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背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえたのは、交差点で信号待ちをしていたときだった。
「おーい、お前。島田じゃないのか?」
振り返ると、どこかで見たことのある顔の男が立っていた。
日常的にゴルフでもしていたのか、やけに日焼けした顔で、すらりと背が高いスーツ姿。
一体誰だっけ? たしかに見覚えはあるんだけど……。
困惑していると、相手は俺の肩をポンポンとなれなれしく叩いた。
「忘れたのか。俺だよ俺。伊藤だよ、いやあ、こんなところで会うなんて奇遇だなあ」
伊藤……? ああ、そうか。だんだんと思い出してきた。
こいつは高校時代のクラスメイトだった伊藤なのだ。
当時も今も、あまり親しいと言うほどではないのだが、たしかに懐かしい顔だ。
「久しぶりだな、島田。お前、今なんの仕事してるんだ?」
突然のこの質問に、ちょっとばかり狼狽した。
実は今、俺は定職にはついていない。
というより、日々犯罪を犯して、なんとか生活をしているのだ。
あまり大声では言えないが、実は俺は泥棒だった。深夜、住居や企業のビルに忍び込んだり、置き引きをやったり……。
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