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他人に危害を加えたことは一度もなかったが、今までざっと数十件の窃盗をやっている。
もちろん、そんなことは伊藤にも誰にも言えるはずがない。
「俺の仕事? ええと……投資関係……だよ」
そんなウソが口からすらすらと飛び出た。もしかすると泥棒稼業のせいで、他人にウソをつくのにも抵抗がなくなっていったのかもしれない。
「投資? すげえじゃん」
「いや、大したことないよ」
「俺も投資には前から興味があってさ。少しでいいから話を聞かせてくれよ。あそこにある喫茶店に入ろうぜ。俺がおごるからさ」
伊藤は、交差点のすぐそばにある喫茶店に向かって、俺の腕を引っ張っていく。
投資のことは詳しくわからないが、下手に疑われるのもまずい気がする。
俺は仕方なく、伊藤と少しだけ話をすることにした。
窓際のテーブル席につくと、伊藤は女性店員にアイスティーを二つ注文した。
「しかし意外だよな。お前が投資関係の仕事をやってたなんて」
「伊藤はなんの仕事してるんだ?」
「半導体の設計をやってる」
「へえ、すごいな」
感心しながら俺は席に置いた自分のカバンにチラリと目をやった。
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