奇遇だな

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 悪いけど、仲間と上司が承諾しなかったよ。伊藤にそう言えばいい。  安堵しながらトイレを出た俺は、妙な光景を目にした。  先ほどまで伊藤が座っていた席に誰もいないのだ。アイスティーのグラスは二つ、そのままになっていたけれど。 「おい、伊藤。どこだ?」  店内を見回してみるが、やはり伊藤の姿はない。  ふと妙な胸騒ぎがした。  カバンを置きっぱなしにしてしまったが、中身の金は大丈夫だろうか。  不安に駆られながら、急いでカバンを開けてみる。  ……しまった、やられた……。  金を入れておいた茶封筒が、丸ごとなくなっている。  代わりに手書きのメモ用紙が入っていた。殴り書きのような字でこう書いてある。 「島田、ウソついてごめんな。俺は今、仕事なんて全くしてないんだ。ただの無職だよ。でも、自分で金は稼いでいる。ここだけの話だが、実は泥棒をやって生活してるんだ」  伊藤が泥棒……だって……?  俺は金を盗まれた悔しさも忘れ、その場で苦笑した。  運命というやつは、なかなか皮肉なものだな。  先ほど、伊藤に声をかけられたシーンが脳裏によみがえってくる。  奇遇だな……か。
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