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智美は「切り離す」のが好きな子供だった。小学三年生の付録の着せ替え人形。厚紙に漫画のキャラクターとドレスが印刷されており、ミシン目に沿って切り離す仕掛けになっている。
智美は嬉々としてミシン目を切り離す。少しでもミシン目から逸れて余計な個所を破ってしまわないよう、慎重に、息を詰めて、切り離す。切り取った後はもう興味がない。キャラクターとドレスはごみ箱に放り込む。
切手のミシン目にもわくわくする。智美のお父さんが箪笥に入れていた切手の束を、智美は全部切り離し、バラバラにしてしまった。しこたま叱られた智美に、お母さんがミシン目カッターを買ってくれた。
「怪我せえへんように使うんやで」
智美は小学三年生、コクヨのノート、新聞の広告、お菓子の空き箱、あらゆる紙にミシン目カッターを転がしてまわった。そうして、ミシン目に沿って紙を千切り、うっとりするのだった。
智美が次に目をつけたのは、トローチの入っている銀色のPTP包装シートだった。一粒ずつの台紙がパキッと割れるようになっている。智美は風邪を引いたときにお母さんにもらって引き出しに入れていたトローチの束を、パキパキ割ってぜんぶ切り離した。
もっと、ないかな。智美はおばあちゃんの寝室に入った。おばあちゃんはいま、お風呂に入っていていない。智美はベッドのそばの物入れの引き出しを開けた。おばあちゃんの薬の袋がたくさん入っていた。
袋を開けると、いろんな色のお薬がどっさり、輪ゴムで束ねられている。どれもトローチと同じ、銀色のPTP包装シートで包まれている。智美の目が輝いた。おばあちゃんのお風呂は長い。智美はベッドのそばに座って、パキパキ、一心不乱に薬を切り離した。
おばあちゃんは腎臓の病気で本当は入院しなければいけないのを、絶対にいやだと言って、自宅療養しているのだった。だから、お父さんとお母さんが仕事を交替で休んで、週に二回車で病院に連れていく。おばあちゃんは、お母さんが作る薄味の食事がまずいと言って、しょっちゅうお母さんに小言を言っている。
おばあちゃんはベッドの下にたくさんお菓子を隠していて(隠していることになってないけど)、智美にもくれる。だから、病気はなかなか治らない。
あくる日。学校から帰った智美におまんじゅうを渡し、自分も同じものを食べながら、おばあちゃんが言った。
「薬を切り離していっしょくたにしたのは、あんたやろ」
智美は下を向いてだまった。
「飲む薬を間違えたらえらいことになるねんから、そんなことしたら、あかんねんで」
やさしい口調で、それだけで終わった。いけないことをしたのに、おばあちゃんは、孫の智美は目に入れても痛くないほどかわいがっているのだった。
その週、おばあちゃんは夜中に痙攣をおこし、救急車に乗って病院に運ばれた。薬の誤飲だった。そうして、もう家に戻ってこなかった。
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